BiTE(Bispecific T cell Engager)を分泌する遺伝子改変T細胞であるEngager-T細胞の肺癌に対する抗腫瘍効果の機序を明らかにするために、まず癌抗原EphA2およびT細胞抗原CD3に特異的なBiTEを作成した。BiTEの特異性を検証するために、EphA2陽性および陰性のがん細胞株に対する抗腫瘍効果を調べた結果、EphA2陽性がん細胞株に対してのみ抗腫瘍効果がみられた。このBiTEを用いて、T細胞およびEphA2陽性癌細胞株との共培養系におけるがん細胞傷害活性の評価系を構築した。次に、外科的切除された肺癌組織中の細胞を抽出して、その中のT細胞のがん細胞傷害活性の測定を行った。肺癌組織中のT細胞に発現するPD-1、Tim-3などの分子の発現をフローサイトメトリーで測定した結果、PD-1などの分子を発現するT細胞の割合が多い患者群(Aグループ)と少ない患者群(Bグループ)に分かれる傾向がみられ、AグループのT細胞活性はBグループのT細胞活性と比べ高い傾向がみられた。また、喫煙者は非喫煙者と比べ肺癌組織内のT細胞活性が高い傾向がみられた。さらに、Engager-T細胞の抗腫瘍効果に影響を与える因子を調べるために、抗PD-1抗体を加えた場合の影響を評価した。その結果、Aグループの抗PD-1抗体による効果ははBグループと比べ高い傾向がみられた。これらの知見はEngager-T細胞を用いたがん免疫療法の有効性を高めることにつながる知見と考えられる。
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