研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、喫煙や大気汚染が原因の気流閉塞を主体とする肺の炎症性疾患で、2020年には世界死因の第3位と推定され、高齢化に伴い患者数の増加が予想されている。さらにCOPDは長引く肺の炎症(慢性炎症)が全身に波及するために、心血管疾患や骨粗鬆症などが高率に合併するマルチコンポーネントな全身性疾患とみなされている。さらに、気流閉塞と炎症を特徴とする喘息とCOPDには、種々の表現型があるだけでなく、両疾患が混在するオーバーラップ症候群が注目されているものの、鑑別や詳細な病態は不明である。このようなヘテロな疾患の解明や個別化医療に欠かせないのがバイオマーカー(BM)であり、診断・治療・新薬開発ストラテジーのパラダイムシフトとして期待されている。種々の細胞が分泌するエンドソーム由来の小胞顆粒であるエクソソームは、近年様々な生理現象のみならず、癌や感染症など多くの疾患への関与から、新たな細胞間・臓器間のコミュニケーション手段として脚光を浴びている。現在まで、microRNAやmRNAなど遺伝情報の網羅的解析は多いものの、プロテオームに関しては、方法や手技の未熟性から大きく遅れを取っている。特に、複雑性の高い血清エクソソームのプロテオミクスに関して、国内・国外問わずほとんど報告されていない。マウス肺気腫モデルから単離した血清エクソソームの最新プロテオミクスにより2000種類近いタンパクを同定するだけでなく、多数の新規バイオマーカー候補を見出した。さらに、種々のモデルマウスを用いた検討からも、疾患特異性のあるBM候補であることを確認した。今後は病勢との相関やヒトへの応用を検討している。
1: 当初の計画以上に進展している
我々はエクソソームの定量プロテオミクスiTRAQにより1300種類以上のエクソソーム蛋白(FDR<1%)の検出に成功した。内包される蛋白は、通常の血清プロテオームでは検出できない膜蛋白や微量蛋白を含むだけでなく、COPD疾患特異的&慢性炎症特異的なBM候補蛋白を見出した。本結果については、平成28年度呼吸器学会総会ポスターセッションにて発表予定である。
検証されたエクソソームのBM候補から、従来法である組織(MLI)や呼吸機能(c chord)との相関を検討することで、病勢や治療効果を反映するBMの検証に挑戦する。さらに、COPDの病態をリアルタイムにフォローするために、マルティモダリティ・イメージング法(超偏極Xe-MRI+Micro CT)により、新規BMの検証を試みる。特に、Xe-MRIは、呼吸機能や組織変化に現れる前から、拡散能低下を検出できるため早期病変の検出も可能で、早期COPD(肺気腫)のBM探索にも繋がる。さらに、シンプルなマウスモデルを利用して見出した新規BMを、ヘテロなCOPD患者で検証する。申請者らは共同血清バンクを構築しており、既に3000検体の血清サンプルを備蓄しており、解析を進行中である。
研究計画が予想以上に順調に進んだため、消耗品などの諸費用が軽減できた。
しかし、DNA MicroarrayやMicroRNA Arrayを含めて受託解析を予定しているため、翌年度分に研究計画を実行するためには欠かせない。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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