研究課題/領域番号 |
15K09224
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆 横浜市立大学, 医学部, 講師 (70510436)
|
研究分担者 |
下里 剛士 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00467200)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ナノ材料 / 癌 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、①原発性肺癌モデルの治療後長期生存例の腫瘍微小環境評価、ならびに②炎症性肺疾患モデルとして、Toll-like receptor 9(TLR9)欠損マウス肺気腫モデルにおける肺気腫進行に関わる生理学的・分子生物学的解析を行った。これまでの成果として、抗腫瘍効果を担うナノ粒子化Th1 potentiator核酸の局所投与による腫瘍微小環境の改変による治療後長期生存効果ついて、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターにおいて口演発表を行った(Young Investigator Workshop 2017)。これらの成果に基づき、臨床応用に向けて有益な共同研究体を構築するに至り、産官学共同研究として「経気道治療用ナノマイクロ粒子包埋医薬品の創出」を目指したより汎用性の高い研究内容として開始した(平成29年度日本医療研究開発機構・創薬基盤推進研究事業・研究開発代表・横浜市大・佐藤隆)。さらに、経気道治療キャリアーに最適化した圧電素子デバイスの研究開発も開始し、臨床応用に向けて多角的な取り組みを開始するに至った。平成28年度の成果として炎症性肺疾患モデル、特に肺気腫モデルでの成果が大きい。我々は、TLR 9が創傷治癒過程にも関与することを示したが(Sato T. Wound Repair Regen 2010;18:586)、TLR9欠損マウスを用いた肺気腫モデルでは、呼吸機能の低下が大きいことを示した。また、野生型マウスを用いた肺気腫モデルでは、早期からTLR9の発現が低下することが示され、経年呼吸機能の低下が大きい肺気腫群では、TLR9の発現低下が関与する可能性が示唆され、2017年5月開催の米国胸部疾患学会総会で報告予定である。 平成28年度は、本研究で目指すナノ粒子化製剤の臨床応用を目指し多面的な取り組みを開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、当初予定通り原発性肺がん長期生存モデルの解析をすすめた。治療後1年生存モデルでは、平均8.2個/最大肺冠状断面の残存腫瘍結節を確認しており、残存腫瘍結節の増大を制御するメカニズムの解析をすすめた。本研究で使用する原発性肺癌モデルは腫瘍関連傍気管支リンパ組織(Tumor-induced bronchus associated lymphoid tissue;T-BALT)の発達がみられ、ヒト原発性肺癌のモデルとして最適であるが、治療早期モデル(治療後20日)の残存腫瘍結節の解析と比較して、興味深い差異が確認された。すなわち、治療後1年生存モデルではCD3(-)Foxp3陽性細胞を多く認め、治療後早期にみられるCD3(+) Foxp3陽性細胞との機能上の差異が示唆される。これらのFoxp3陽性細胞の多くはB細胞由来であることが示唆され、CD3(+)Foxp3(+)の制御性T細胞の腫瘍内分布を制御することで、抗腫瘍効果を維持し残存腫瘍の進展増大を抑制している可能性が示唆され、現在追試による確認を行っており最終年度に検証を終える予定である。 本年度はまた、炎症性肺疾患モデルの解析を予定通りすすめた。特に初年度に興味深い結果が得られたTLR9欠損肺気腫モデルを用いて、本年度はTLR9非依存性に肺気腫増悪抑制効果を示す免疫抑制性核酸を選定し治療薬としての評価を施行し、2017年5月開催の米国胸部疾患学会総会で発表となった。この免疫抑制性核酸を用いた治療効果の機序として、酸化ストレスに関わるNADPHオキシダーゼの活性化を抑制する機序が考慮され、引き続き最終年度に検証を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果に基づき、平成29年度は①原発性肺がん治療後長期生存モデルの組織学的評価・安全性評価に関わる追試。および、②炎症性肺疾患モデル・肺気腫モデルに関わるTLR9および関連する自然免疫にかかわる蛋白発現、酸化ストレスに関与する蛋白発現にかかわるマウスならびにヒト組織を用いた評価を行う。 これまでの研究成果により、経気道治療の幅広い疾患に対する適応可能性に関して、国内外で興味関心を喚起し、平成29年度からは産官学共同研究体も立ち上げ、より大規模な汎用性の高い研究内容へと応用展開を開始するに至っている。また、臨床応用を視野に、経気道治療用ナノマイクロ粒子キャリアーの経気道投与に最適化した圧電素子を用いた噴霧式経気道投与デバイスの開発も継続して行う。また、炎症性肺疾患モデルの研究に関して、創傷治癒過程にも関与があるTLR9の欠損マウスを用いた肺気腫モデルの検証を行い、TLR9の発現低下が肺気腫進展と関与する可能性が示唆されたことから、1) ヒト肺気腫組織におけるTLR9の発現検証、2) TLR9の発現低下に及ぼす自然免疫応答のクロストーク(特にインフルエンザウイルス感染との関与からTLR7とのクロストーク)、さらに3) TLR9の発現に関与する可能性がある気道細菌叢についても検証を行う。平成28年度から呼吸器疾患モデルにおけるuncultured bacteriaを含む気道細菌叢の解析にむけて検体採取も開始しており、平成29年度も引き続きUncultured bacteriaを含む常在細菌叢の解析を、共同研究機関である信州大学・下里研究室との共同研究として実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金は、平成28年度実施内容の一部を、平成29年度にまたいで実施する計画としたことで、研究室における現有物品の活用が図られたことで生じた。具体的には、研究継続に必要なナノ粒子の作成更新を平成29年6月に行うこととしたことと、サンプル組織標本の追加作成・免疫組織染色試薬の更新を同じく平成29年6月に行うこととしたため、次年度使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、平成28年度中に採取したマウスモデルならびにヒト組織サンプルの詳細解析を実施するため、特に免疫組織染色試薬の新規取得および更新で繰越し分を使用する計画である(標本作成(HE染色標本30枚および未染スライド120枚で210,000円、1次/2次抗体取得・更新各5種類で500,000円、免疫染色備品で60,000円)。さらに炎症性肺疾患モデルの研究過程で発生した課題である気道細菌叢の解析に関しては、平成29年度に信州大学・下里研究室と共同でマウスモデルにおける気道のuncultured bacteriaの解析を追加で30検体施行する予定で、600,000円を計上している。
|