研究課題/領域番号 |
15K09234
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
長内 和弘 金沢医科大学, 医学部, 教授 (70221158)
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研究分担者 |
小林 誠 金沢医科大学, 医学部, 助教 (20460355) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 急性呼吸窮迫症候群 / リゾリン脂質 / リゾリン脂質アシル基転移酵素 / 肺胞Ⅱ型上皮細胞 / アデノ随伴ウイルスベクター |
研究実績の概要 |
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は治療法の乏しい、いまだに死亡率の高い疾患である。その病態生理は急性肺傷害であり、炎症細胞由来のホスフォリパーゼA2の作用によりリゾホスファチジルコリンをはじめとする各種炎症惹起性リゾリン脂質が産生される。これらリゾリン脂質は炎症をさらに増悪させると推測されるが、ARDSの病態生理における意義は必ずしも明らかにされてこなかった。リゾリン脂質アシル基転移酵素はリゾリン脂質に対しアシル基を転移し、元の安定なリン脂質に戻す作用がある。本研究は抗原性の乏しいアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、ARDS実験モデル肺に同酵素を遺伝子導入することで、ARDSにおけるリゾリン脂質の役割を明らかにするとともに、有効な薬物治療の乏しいARDSに新たな治療法の可能性を提供することを目的としている。本年はリゾフォスファチジルコリンアシル基転移酵素(LPCAT)およびコントロールとしてlacZ酵素を組み込んだAAVウイルスベクターの作成を行った。両酵素とも293細胞へトランスフェクションすることで、LPCATはウェスターンブロットで、lacZは293生細胞でのlacZアッセイでそれぞれ発現を確認した。 またラットより肺胞Ⅱ型上皮細胞を単離し、インサートウェル上に播きこみ、気相培養することで分化機能を残した肺胞Ⅱ型上皮細胞を維持できることを確認した。
以上の研究成果より、本年度分として計画していた本研究のin vitroの部分はほぼ終了させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター作成 プラスミッドベクター作成:Agilent社、AAV Helper Free Systemキットを購入して用いる。これまでの研究でマウスLPCAT1およびlacZ遺伝子を組み込んだアデノベクターを作成済みである。この際に作成したpDC516プラスミッドより両cDNAを制限酵素で切り出し、AAVベクター作成用のpAAV-MCSプラスミッドに組み込んだ。組み換えウイルス作成:pAAV-LPCAT1またはpAAV-lacZ(コントロール)のいずれかをpHelper, pAAV-RCプラスミッドとともにAAV-293細胞にトランスフェクションした。目的タンパク質発現測定:組み換えAAVウイルスを感染させたAAV-293細胞を経時的に回収し、抗6×ヒスチジン抗体でウェスターンブロットを施行し、目的タンパク質の発現を確認した。またコントロールAAVウイルスはX-galを基質にlacZアッセイで確認した。
2.肺胞Ⅱ型上皮細胞単離と細胞アッセイ・ラットⅡ型細胞単離・培養:肺胞Ⅱ型細胞株や培養ディッシュに培養した単離Ⅱ型細胞は脱分化し、肺サーファクタントの研究には使用できない。そこでSprague-Dawley (SD)ラットからエラスターゼ消化およびメトリザマイド密度勾配遠心法にてⅡ型細胞を単離し、これをインサートウェルの内側底側マトリゲル膜上に培養し、途中から上皮側を気相にして、分化機能を維持したⅡ型細胞を培養した。分化機能をSP-A, SP-B, SP-DのmRNA発現をリアルタイムPCRで分析したところ、培養ディッシュに培養した細胞に比し高発現していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
課題:AAVウイルスは細胞毒性が極めて少ない反面、293細胞内で増殖しないため、必要なウイルス量を確保するために大量のプラスミドを産生・精製する必要があることが分かった。また血清型が多く存在するが、当初使用していたこれまで繁用されてきたAAV2は気管支上皮・肺胞上皮への遺伝子発現量が比較的少ないことが判明した。このため同組織への遺伝子発現量に優れているAAV6を購入して使用することとした。さらにF129Lのアミノ酸変異を導入したAAV6.2が最も優れているのでこれを使用する予定である。しかしAAV6.2は市販されていないので我々自ら作成する予定である。
今後の研究:単離培養しAAV6.2ウイルスを感染させたラット肺胞Ⅱ型上皮細胞のLPLAT活性を測定するとともに、酸素ラジカル(H2O2)によるアポトーシス細胞数、リゾリン脂質量の変化を解析する。つぎにラット肺に同AAV6.2ウイルスを経気管的に前投与した後にリポポリサッカライドを投与しエンドトキシン急性肺傷害モデルを作成する。LPLATの発現により急性肺傷害の程度が改善するかどうかを生理学的指標、病理組織学的指標で評価する。またその機序を炎症細胞数、アポトーシス細胞数、肺サーファクタント量、リゾリン脂質量、酸素/窒素ラジカル量、サイトカイン量、ホスフォリパーゼA2活性などの測定により病態生理の面から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画は、1)アデノ随伴ウイルスベクターの作成、および2)ラットからの肺胞Ⅱ型上皮細胞の単離と分化機能を維持したな培養系の構築であった。これらは1)、2)ともほぼ達成できた。しかし研究を進めていく間にアデノ随伴ウイルスは293細胞内でも増殖しないことが判明し、同ウイルスの作成にはそのつど十分量のプラスミドの産生と293細胞の増殖が必要であることが判明した。特に動物への遺伝子導入には大量の同ウイルスベクターが必要になることから、今後、動物実験のたびに大量のプラスミドの精製と293細胞が必要になり、そのつど経費がかかると見込まれることから、同ウイルスベクター増量生産のための予算を次年度以降に持ち越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降はラットへのアデノ随伴ウイルスの投与を開始するので、実験のつど大量の大腸菌培養、プラスミド作成、293細胞の培養増殖、293細胞からのアデノ随伴ウイルスの単離精製が必要となり、これらの実験に必要となるプラスミド精製キット、培養培地、滅菌プラスチチック容器、ウイルス精製フィルターキットなどの消耗品の購入に使用する計画である。
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