研究課題/領域番号 |
15K09236
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
矢寺 和博 産業医科大学, 医学部, 准教授 (40341515)
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研究分担者 |
迎 寛 産業医科大学, 医学部, 非常勤医師 (80253821)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一酸化窒素 / 気管支喘息 / COPD / マウス |
研究実績の概要 |
一酸化窒素の呼吸器系の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが知られている。本研究では、気管支喘息、COPDにおける血清一酸化窒素の意義を解明するために、n/i/eの3種類の一酸化窒素合成酵素を欠失させた一酸化窒素合成酵素完全欠失マウスを用いて検討を行った。 まず、気管支喘息における一酸化窒素の働きを評価するために、卵白アルブミンの投与にて気管支喘息モデルを作成し、検討を行った。その結果、一酸化窒素合成酵素完全欠失マウスでは、通常マウスと比較し、気道上皮、特に杯細胞における気道分泌の軽減や炎症細胞浸潤、気道壁肥厚、気道リモデリングの軽減を認めた。また、IL-4、IL-5、IL-13といった気道炎症に関わるサイトカインの明らかな軽減を認めた。これらの結果より、一酸化窒素は、好酸球性炎症、気道分泌の亢進において増悪因子としての役割を果たすことを証明した。次に、COPDにおける一酸化窒素の働きを評価するために、豚膵エラスターゼの投与にてCOPDモデルを作成し、検討を行った。その結果、一酸化窒素合成酵素完全欠失マウスでは、通常マウスと比較し、平均肺胞間隔壁距離の増加を認め、気腫性変化の増悪を認めた。また、この現象は、一酸化窒素を補充することで改善した。いっぽうで、一酸化窒素シングル欠失マウスではこの現象は見られなかった。 以上の結果より、一酸化窒素は気管支喘息にておいては増悪因子として、COPDにおいては保護的因子として作用する可能性が示唆された。これまでの研究報告においても、一酸化窒素の二面的な役割が報告されており、今後これら呼吸器疾患における機序の解明を含め、さらなる検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、一酸化窒素合成酵素完全欠失マウスを用いることで、気管支喘息やCOPDにおける一酸化窒素の役割についての結果を得た。本研究の第一の目標として、一酸化窒素が欠失することによる肺の現象の変化を明らかにすることであり、当初の目的を達成することができたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今回得られた結果をもとにした今後の目標としては、一酸化窒素欠失によるこれら現象の機序を明らかにすることである。今後の検討要因としては、病理所見では一酸化窒素合成酵素完全欠失マウスでより多くのマクロファージが出現していたことから、マクロファージの役割を中心に、炎症、活性酸素、血管系などのサイトカインの評価を行っていく予定である。また、近年呼吸器疾患における骨髄由来細胞の役割が報告されており、さらなる病態解明のため、これら骨髄由来細胞の一酸化窒素との関連を検討することは極めて興味深い点であると考えている。そのため、骨髄移植マウスを用いて、骨髄由来細胞がいかに肺の気腫化に影響を与えるかを評価中である。さらに、今後当院では動物用CTの使用が可能であることから気腫性変化の経時的推移を評価し、さらなる理解に努めることを目的としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生要因として、当初、実験自体はおおむね予定通りに進行していたため、次過程での検査試薬の購入を予定していた。しかし、病院内の業務、実験データの解析に時間を要し、本年度中に追加実験への過程への移行ができなかった。また、当院では動物用CT撮影機械の導入がされたが、年度内の使用ができなかった。そのため、今回次年度への繰り越しが発生したものと考える。
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次年度使用額の使用計画 |
研究自体は順調に進行しており、今後、気管支喘息、COPDと血清一酸化窒素の機序を解明するために、炎症性サイトカインを含めたメディエーターの評価を行うことを予定している。今回の繰り越し金に関しては、これら評価のための試薬などの使用を予定している。また、動物用CT撮影が可能となったことからそれら機器の使用費用としての使用も考慮している。
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