研究課題/領域番号 |
15K09246
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 秀樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90625237)
|
研究分担者 |
南学 正臣 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90311620)
和田 健彦 東海大学, 医学部, 准教授 (90447409)
吉田 瑶子 東京大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (90649443)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 非典型溶血性尿毒症症候群 / 次世代シークエンサー / 補体 |
研究実績の概要 |
本研究では、希少疾患であり、かつ新規難病に指定された非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)のwhole exome sequencingによる全候補遺伝子の診断方法の樹立を目指すとともに、これまで確認できなかったCFHRの変異の検出、未知原因遺伝子の探索を目的とした。 本研究の活動を通じて全国から105件のコンサルテーションを受け、aHUS診断に必要な検査を実施し、51名でaHUSと診断した。本研究では、次世代シークエンサーを用いたwhole exomeによるaHUS原因遺伝子の解析方法を樹立した。具体的には、これまでの既知の8個(CFH、MCP、CFI、CFB、C3、thrombomodulin、DGKE、plasminogen)の遺伝子の全エクソン解析を行い、さらにこれらの変異に対して様々な注釈をつけ、病的、非病的変異の選別を行った。 またaHUS患者の約10%でCFHに対する自己抗体の存在が報告され、この抗体はCFHによる細胞保護作用を阻害することが知られている。抗factor H抗体の出現は、CFH関連蛋白質(complement Factor H Related、 CFHR)1~5の様々な遺伝子異常(欠損、融合)が関与しており、これらの遺伝子異常により抗体が出現すると考えられている。whole exomeによる遺伝子解析により、抗体陽性患者のCFHR遺伝子の欠損、コピー数異常を検出することが可能となり、CFHR遺伝子変異の背景を解析している。 また臨床的にaHUSと診断されるにも関わらず、既知の遺伝子変異が見つからない患者が約4割おり、現在その様な患者を集積、解析中である。 本研究を通じて、aHUSの遺伝子解析方法が樹立されると共に、aHUSの遺伝子変異解明が進み、遺伝的背景が明らかとなり、病態解明の促進が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに105件の解析依頼を受け、そのうち、臨床的に補体関連異常によるHUSが疑われた症例は51例であった。全例で羊赤血球溶血試験を実施し、溶血試験で得られた溶血度と原因遺伝子変異や抗H因子抗体の有無との関連性を検討した。CFH異常および抗H因子抗体陽性患者では、溶血度50%以上の溶血亢進を認め、C3異常や他の遺伝子変異例、また遺伝子変異未同定症例では陰性となることが確認し、溶血試験はH因子系異常症例の同定に有用であることが示された。 また本研究により、次世代シークエンサーを用いたwhole exome解析を行い、aHUS患者の遺伝子解析体制を樹立している。患者白血球からDNAを抽出し、HiSeq2500でリード検出を行った。約400万リードの塩基データ(fastqファイル)から、qualityチェック(FastQC)、トリミング(Trimmomatic)、ヒトゲノムレファランスゲノム配列へのmapping(BWA)、重複リードの除去(Picard)、バリアントコール(GATK)、アノテーション付加(Annovar)を行い、変異部位の抽出を行っている。サンガー法との検証を行い、aHUS原因遺伝子が検出できることを実証した。今後は、変異の見つからなかった患者から様々なフィルタリングを用いて未知候補遺伝子を探索予定である。 また全患者にELISA法を用いた抗CFH抗体のスクリーニングを実施し、抗体陽性患者に対してはウエスタンブロット法を用いた検証を行い、5例の新規抗体陽性例を同定した。これらの抗体陽性患者に対してもwhole exome解析を実施し、CFHR3/1の欠損、CFHR1のheterozygous欠損を同定しえた。今後さらなる解析としてXHMMを用いてchromosomeのcopy number解析を立ち上げ中である。
|
今後の研究の推進方策 |
aHUSは2008年に本邦で初めて見つかり、これまでに100から200例程度が診断されたと推察される希少疾患である。確定診断は多くの血液学的検査、多数の遺伝子検査が必要であるため非常に困難であり、一般病院はもちろんのこと、大学病院においても診断のために必要な検査を実施できる機関はほぼない。また原因も先天性、後天性、また先天性も様々な原因遺伝子があり、遺伝子変異も様々なタイプの変異が報告されており、解析が容易ではない。 今後も本研究活動を通じて、本疾患の遺伝子検査法を樹立するとともに、本邦での遺伝子異常背景を明らかにし、未知原因遺伝子の探索を継続する。またこれまでは抗H因子抗体が陽性となるH因子関連蛋白の遺伝子異常は、大きな遺伝子座のnonallelic homologous recombination(NAHR)が原因であり診断ができなかったが、whole exome解析による遺伝子異常の同定を目指す。 また溶血試験陽性例は、その後の遺伝子検査で病的変異が見つかっており、溶血試験の有用性が示された。今後は遺伝子変異による感度・特異度の解析や、二次性TMA疾患との鑑別に有用であるかを検討していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予想より安価で購入できた実験試薬があったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究試薬に使用予定。
|