研究課題
進行性腎障害を、免疫担当細胞・腎固有細胞の慢性炎症の視点から検討し、新たな検査・治療標的を創出することが本研究の目的である。慢性腎不全によって慢性透析に導入される患者数は依然減少を見ず、腎不全のみならず、心血管疾患の合併などで生命予後も不良である。腎障害の発症・進展期には炎症促進系細胞が、また障害修復期には免疫抑制性細胞がそれぞれ関与していることが報告されているが、その詳細や、制御機構については不明な点が多い。我々は、炎症促進性細胞と免疫抑制性細胞のバランスが腎疾患の進展/終息に関与していることを明らかにしてきた。本検討ではToll like receptor(TLR)に着目し、免疫担当細胞の機能制御を検討することによって、疾患活動性のマーカーや治療標的としての基盤を創出したいと考えている。昨年度は、自然免疫に関与するマクロファージと腎疾患に着目して検討を行った。論旨の概要は下記に示すが、マクロファージアポトーシス抑制因子(AIM)が、蛋白尿の増悪、腎機能低下と相関することが明らかとなった。これまで種々の炎症関連タンパクが進行性腎障害の病態に関与することが報告されていたが、本検討において、AIMの腎機能障害に対する関与が示唆された。マクロファージの浸潤が、腎障害を増悪させることが知られているが、成熟型マクロファージから分泌されるAIMも腎障害の促進因子である可能性が示され、今後の治療標的となる可能性も考えられる。これらの結果は日本腎臓学会の英文誌に受理され、出版される予定である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は、Toll like receptorをはじめとする自然免疫にかかわるマクロファージ着目して検討を進めた。マクロファージアポトーシス抑制因子(Apoptosis inhibitor of macrophage :AIM)は、分化成熟したマクロファージが特異的に産生する約50kDa の分泌型タンパク質であり,マクロファージ自身のアポトーシスを抑制する。近年の研究より分泌された大部分のAIMはIgMと共存していることが明らかとなった。一方で、種々の腎障害による糸球体病変で、IgMの沈着が認められるが、AIMとの関係については明らかではない。そこで、本検討では、腎障害におけるAIMとIgMの病態における意義について検討を進めることとした。ヒト腎生検標本43検体でAIMとIgMを免疫染色により同定し、各臨床パラメーターとの相関を評価した。その結果、糸球体においてAIMとIgMが共存して沈着している面積率と、蛋白尿が相関した。またAIMの面積率と年間eGFRの低下が相関することが判明した。これらの結果は、他臨床パラメーターとの単変量解析、多変量解析においても同様であった。これらの結果は、AIMとIgMが共存することで、腎機能障害が進展する可能性を示していると考えられた。これらの結果はClin Exp Nephrol誌に受理され、2016年4月現在Epub ahead of printとしてウェブ上に掲載されている。
現在、TLR7欠損糖尿病性腎症モデルマウスの検討を進めている。現在のところ、TLR7欠損マウスで腎障害が増悪する所見を得ているが、今後、解析する匹数を増やして、再現性を確認する。腎組織を用いて、免疫染色、mRNA発現などで、炎症関連分子などを評価する。セルラインやマウスから分離・培養した細胞を用いて、高糖刺激などを行う。炎症関連分子の発現、自然免疫関連の細胞内シグナル伝達を確認して、その機序について検討を進める。また、ヒト腎生検組織においても、TLR関連因子を免疫染色などで確認し、臨床病態との相関を検討する。
実験試薬がキャンペーン価格で購入でき、当初の見積もりよりも購入費が安く済んだ。
余剰分で、来年度、新たな実験を施行する予定である
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Clin Exp Nephrol
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Clin Exp Nephrol.
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