再生医療の分野では人工多能性幹細胞が注目されているが、安全性という点ではまだ克服すべき課題が存在する。一方で間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells : MSC)は安全性が高く、また同種他家移植が可能であるなど実用化という点で優位性がある。国内外で、MSCを用いた再生医療に関する臨床研究は数多く行われている。移植細胞ソースの多くは骨髄であるが、採取に関する身体への侵襲度が高く、かつ高齢者や様々な難治性疾患患者では良質な幹細胞を十分に確保することが難しいという点が指摘されている。また細胞治療分野における独創性を見出す点からも、細胞ソースを骨髄以外の組織に求める戦略が有用であると考える。近年、新たな移植細胞ソースとして卵膜に注目がおかれている。申請者らはこれまでの研究で、再生促進作用や免疫調整能を増強させる低血清培養脂肪組織由来MSCを独自に開発した。臨床試験において、卵膜由来MSCを用いた腎疾患治療は未だ登録されていない。研究の目的は、卵膜由来MSCの低血清培養法による新規細胞製剤の開発と腎疾患への臨床応用である。申請者らのこれまでの研究により、卵膜由来MSCの培養液の血清濃度を2%に変更した条件下でMSCの分化が確認された。しかし、血清濃度2%の低血清培養法では卵膜由来MSCの増殖能が減衰し、passage3で増殖速度が低下した。MSCの増殖促進の目的でhFGF(human fibroblast growth factor)を添加し培養液を導入すると、増殖速度の改善が得られる一方で未分化状態が維持されない問題点が明らかとなった。卵膜由来MSCでは脂肪組織由来MSCと同一の結果を出すことができなかった。低血清培養法は細胞ソースに依存する可能性が今回の研究で示唆された。今後、卵膜由来MSCに最適な独自性を有する培養法の確立と腎疾患への治療効果の検証が必要で有る。
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