研究課題/領域番号 |
15K09258
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長船 健二 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (80502947)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 腎臓 / 中間中胚葉 / 尿管芽 / 集合管 / ARPKD |
研究実績の概要 |
腎臓に進行性に多数の嚢胞を形成し腎機能不全を引き起こす、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)や常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)などの嚢胞性腎疾患の病態機序の解明や根治的治療薬の開発研究の進展が期待されている。また、難治性疾患の患者体細胞から樹立される疾患特異的iPS細胞を病気で傷害される細胞種に分化誘導することによって病態を再現する疾患モデルを作製する研究が盛んに行われている。本研究では、特にARPKDに焦点を絞り、ヒトiPS細胞から同疾患で傷害される腎細胞種である胎生期腎臓の尿管芽細胞とそれより派生する集合管細胞への高効率分化誘導法を確立する。そして、ARPKD患者由来iPS細胞をそれらの傷害腎細胞種へ分化誘導することによって、ARPKDの腎嚢胞形成を再現する新規疾患モデルの開発を目指す。最終目標として、新規の治療標的分子となりうる病態関連分子の同定や腎嚢胞形成を模倣する培養系を構築することによって、腎嚢胞形成を阻害する治療薬のスクリーニング系開発に繋げる。 平成28年度は、前年度までに開発した分化誘導法を用いて尿管芽細胞を作製し、マウス胎仔の後腎間葉や既報を用いてヒトiPS細胞から分化誘導したネフロン前駆細胞の細胞塊との共培養を行ったが、相互に分化を促進する発生学的機能が認められなかった。このため、発生機構をより忠実に再現することを試み、尿管芽を派生させる前方中間中胚葉と中腎管を選択的に分化誘導する方法を確立し、現在、中腎管から尿管芽への分化誘導を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ARPKDなどの嚢胞性腎疾患に対する疾患モデル作製のためには、ヒトiPS細胞から中間中胚葉、中腎管を経て尿管芽を選択的に分化誘導することが重要である。申請者らは、本研究開始までに尿管芽細胞を40%程度の効率にて分化誘導する方法を開発していた。平成27年度に分化誘導法の改良を行い、尿管芽細胞の誘導効率を80%以上に向上させた。平成28年度には、前年度に開発した方法を用いて尿管芽細胞を作製し、マウス胎仔の後腎間葉や既報を用いてヒトiPS細胞から分化誘導したネフロン前駆細胞の細胞塊との共培養を行ったが、相互に分化を促進する尿管芽としての発生学的機能が認められなかった。そのため、発生機構をより忠実に再現することを試み、FGFおよびTGFbシグナルを調節することで、それぞれ外胚葉と内胚葉細胞への分化を抑制し、さらに側板中胚葉と沿軸中胚葉細胞の混入を抑え、尿管芽を派生させる前方の中間中胚葉を選択的に分化誘導し、そこから中腎管を分化誘導する方法を確立した。そして、現在、中腎管細胞から尿管芽細胞への分化誘導を行っている。 上記のとおり尿管芽細胞の誘導法改良に計画以上の時間を要したため、平成27年度から開始している集合管細胞のマーカー遺伝子であるAQP2のレポーターヒトiPS細胞株の樹立に関しては、現在ターゲティングベクターの作製を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS細胞由来の中腎管細胞から尿管芽細胞への分化誘導法を確立する。そして、マウス胎仔後腎間葉細胞やヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞との間の相互分化誘導作用の確認などの機能解析を行う。AQP2レポーターヒトiPS細胞株の樹立を完了し、尿管芽細胞から集合管細胞への分化誘導法および三次元の集合管構造の作製法の開発を行う。また、AQP2レポーター細胞株を用いて単離される集合管細胞の遺伝子発現解析を行い、集合管細胞を単離するための表面抗原の探索を行う。そして、ARPKD患者由来iPS細胞と対照となる健常iPS細胞または遺伝子変異修復iPS細胞株を尿管芽細胞と集合管細胞へ分化誘導を行い、それらの細胞種の細胞表面抗原を用いた単離・純化を行い遺伝子発現の比較解析による病態関連分子の探索や三次元の集合管構造の作製による嚢胞形成の再現などの解析を進めていく。そして、ARPKDの病態解明や新規治療標的分子の同定、治療薬スクリーニング系の構築に繋げる。
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