研究実績の概要 |
腎臓に進行性に多数の嚢胞を形成し腎機能不全を引き起こす、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)や常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)などの嚢胞性腎疾患の病態機序の解明や根治的治療薬の開発研究の進展が期待されている。また、難治性疾患の患者体細胞から樹立される疾患特異的iPS細胞を病気で傷害される細胞種に分化誘導することによって病態を再現する疾患モデルを作製する研究が盛んに行われている。本研究では、特にARPKDに焦点を絞り、ヒトiPS細胞から同疾患で傷害される腎細胞種である胎生期腎臓の尿管芽細胞とそれより派生する集合管細胞への高効率分化誘導法を確立する。そして、ARPKD患者由来iPS細胞をそれらの傷害腎細胞種へ分化誘導することによって、ARPKDの腎嚢胞形成を再現する新規疾患モデルの開発を目指す。最終目標として、新規の治療標的分子となりうる病態関連分子の同定や腎嚢胞形成を模倣する培養系を構築することによって、腎嚢胞形成を阻害する治療薬のスクリーニング系開発に繋げる。 平成29年度は、前年度までに開発した分化誘導法を改良し、二次元培養にて前方中間中胚葉とウォルフ管(中腎管)を70%以上の高効率で分化誘導し、さらにゲルの中での三次元培養を行うことで分岐を繰り返し、尿管芽のマーカー遺伝子であるGATA3, RET, CK19, PAX2, CALB1などを発現する組織を作製することに成功し、ヒトiPS細胞から尿管芽組織の分化誘導法を確立し論文発表を行った。さらに、ARPKD患者体細胞から樹立したiPS細胞株を本分化誘導法により尿管芽組織に分化することにも成功し、現在、健常人由来iPS細胞から作製した尿管芽組織との比較を行い、尿管芽の段階でARPKDに生じる異常の有無と集合管へのさらなる分化誘導を行っている。
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