研究課題/領域番号 |
15K09263
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田邊 克幸 岡山大学, 大学病院, 助教 (40534805)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 急性腎障害 / 酸化ストレス / 血管新生 |
研究実績の概要 |
本研究は、急性腎障害の発生と進展において内因性血管新生抑制因子であるVasohibin-1と内因性血管新生促進因子であるVasohobin-2が役割を担うとの仮説の下に、これらの分子が急性腎障害に対する新規の治療標的となる可能性を検討することを目的としている。 H27年度にVasohibin-2(VASH2)ノックアウト(KO)マウスに対して虚血・再灌流モデルを作成して、腎機能及び腎組織傷害について野生型マウスと比較して急性腎障害の有意な増悪を認めたが、H28年度はVASH2 KOマウスで急性腎障害が増悪する機序に関する検討も行った。血管内皮成長因子(VEGF)レベルに差は認められなかったが、腎傍尿細管毛細血管数はVASH2 KO虚血・再灌流モデルで野生型と比較して減少していた。また、内因性VASH2の発現は、虚血・再灌流後に傷害された尿細管上皮細胞で増加することが示された。培養ヒト尿細管上皮細胞でのアデノウイルスベクターによるVASH2の過剰発現は、著明なAktのリン酸化亢進につながったことから、VASH2は急性腎障害における尿細管上皮細胞の生存に関与する可能性が示唆された。 更に、Vasohibin-1(VASH1)heterozygous(+/-)マウスに対してシスプラチン20mg/kgの腹腔内投与を行って、薬剤性急性腎障害におけるVASH1の役割についても検討した。VASH1+/-マウスでは、野生型マウスと比較してシスプラチン投与後の腎機能と腎組織傷害の有意な増悪が認められた。TUNEL陽性アポトーシス細胞及び酸化ストレスマーカーもVASH1+/-マウスでの急性腎障害において増加が認められた。内因性VASH1の発現は、シスプラチン投与後に減少することが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度までにVASH1+/-マウスとVASH2 KOマウスを使用した急性腎障害モデルでの検討を予定通り進めている。当初の仮説では、VASH1とVASH2は相反する作用を示すと予想していたが、実際には何れの欠損マウスにおいても急性腎障害の増悪が認められた。VASH1とVASH2は血管新生に対しては逆の効果を持つことから、急性腎障害モデルマウスでの結果は血管新生のみならず、VASH1とVASH2が尿細管上皮細胞への直接的な作用を持つ可能性を示唆するものであり、何れも急性腎障害に対する予防または治療薬となる可能性を持つと考えられる。これらの結果は、研究全体の進行に影響を及ぼすものではなく、尿細管上皮細胞への効果については、予定通りアデノウイルスベクターを使用したin vivo実験系や培養尿細管上皮細胞を使用したin vitro実験系での検討を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
VASH1+/-マウスまたはVASH2 KOマウスでの急性腎障害の増悪については、その機序を解明するために培養ヒト尿細管上皮細胞での検討を継続していく。シスプラチンまたは過酸化水素による細胞障害に対する組み換えヒトVAHS1及びVASH2蛋白質の効果、アデノウイルスベクターによるVASH1及びVASH2の過剰発現の効果、siRNAによるVASH1及びVASH2の発現抑制による効果を検討する。特にVASH1+/-マウスでは急性腎障害に伴って著明な酸化ストレスの増加が認められるため、ミトコンドリア障害への影響についての検討を進めていく。 また、VASH1とVASH2は何れが欠損しても急性腎障害の増悪が認められるため、これらが急性腎障害の予防または治療薬になり得るかを検討するために、野生型マウスにおいてアデノウイルスベクターによりVASH1またはVASH2を過剰発現させ、シスプラチンまたは虚血・再灌流による腎障害が改善するか否かを検討する。
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