研究課題/領域番号 |
15K09264
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
村上 太一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 助教 (30403736)
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研究分担者 |
松浦 元一 徳島大学, 大学病院, 特任助教 (10403734)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ApolipoproteinL1 / high density lipoprotein / 酸化ストレス / 腎臓病 |
研究実績の概要 |
(APOL1トランスジェニックマウス(Tg)を用いたApoL1の機能解析)雌雄の対照マウスとヘテロAPOL1 Tg、ホモAPOL1 Tg、全6群で血清ApoL1発現量定量および脂質プロファイル、血・尿中酸化ストレスレベル・抗酸化能の定量化を行っている。脂質プロファイルではプール血清(N=7)を用いてリポ蛋白粒子亜分画におけるコレステロール、中性脂肪含有量および粒子サイズを測定した。雄対照マウスに比べ雄ヘテロAPOL1 Tgでは総コレステロール値:134.61(対照125.81)、HDLコレステロール:109.89(対照102.16)、VLDLコレステロール:4.75(対照5.43)、LDLコレステロール:19.55(対照17.69)、中性脂肪:36.36(対照41.48)、HDL中性脂肪:2.09(対照2.30)、VLDL中性脂肪:20.80(対照25.77)、LDL中性脂肪:11.36(対照9.18)であった(単位は全てmg/dL)。APOL1 Tgでは総コレステロール、HDLコレステロールが高値を示し、また、コレステロールおよび中性脂肪含有量ははVLDLとLDLにおいて逆転現象を認めた。これらは各個体でのコレステロール測定でも同様の結果が得られ、ApoL1蛋白の脂質組成へ影響することが判明し、機能の一端を明らかにしている。 (ヒト臨床サンプルを用いた血中ApoL1発現量と酸化ストレスなど各種マーカーとの多変量解析)ヒト臨床検体を用いたApoL1蛋白機能解析研究として、介入を伴わない観察研究として徳島大学臨床研究倫理審査委員会に承認された。当大学腎臓内科患者に説明・同意のうえ既に80以上の検体(血清、尿)を採取している。血清ApoL1値とともに脂質、肝腎機能、血糖、尿蛋白などの血液・尿生化学が測定済みである。同時に研究協力者(自治医科大学小谷和彦先生)により血清HDL分画および酸化マーカーを測定中であり、これらの解析によりヒトでの機能が明らかにされる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では血中ApoL1の腎保護作用について、in vivo、in vitroの系および臨床検体を用いて多面的に解明していく。実験プランは1)APOL1 Tgを用いた血中ApoL1蛋白の機能解析、2)ヒト臨床サンプルを用いた血中ApoL1発現量と酸化ストレスなど各種マーカーとの多変量解析、3)培養腎糸球体細胞を用いた血清ApoL1蛋白の機能解析である。APOL1 Tgは個体化が遅れたことやマウス繁殖が遅れていることなどから、in vivo実験は基礎データを採取している段階であるものの確実にデータは整いつつある。ネフローゼ症候群モデルは当施設での予備実験でも高度尿蛋白が惹起されることも確認できている。またAPOL1 Tg由来血清/抽出HDLを対象マウスに投与することでApoL1蛋白の治療効果も検討する予定であるが、予備実験でAPOL1 Tg由来血清を対照マウスに腹腔内投与したところ、投与数時間後より数日にわたりApoL1蛋白が対照マウス血中に検出されることが確認できている。個体数がそろい次第サンプリング、測定、解析が開始できる状態である。また障害モデルを用いる実験も予備実験は終了している。 ヒト検体を用いた腎臓病患者における血中ApoL1と酸化ストレスとの関連についての臨床研究は当初平成28年度開始を予定していたが、徳島大学臨床研究倫理審査委員会に研究計画が早期に承認されたこともあり、腎臓病患者からの検体数は80を超えている。一般血液・尿生化学検査は当院臨床検査部にて既に測定が完了しており、HDL亜分画測定や酸化脂質測定は研究協力者(自治医科大学小谷和彦先生)により解析が行われている。 in vitro実験は培養細胞を用いた血清ApoL1蛋白の機能実験である。マウス血清を用いた系を検討しており、マウスの繁殖が整ったのち開始予定である。研究全体としてはほぼ順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
対照マウスはApoL1蛋白を発現しないため、HDL分画特異的にApoL1を発現するAPOL1 Tgの解析は本研究の主幹となる。本マウスは蛋白発現に誘導を必要とせず、サンプリングが容易であり、基礎データ採取、モデル作成、結果解析が肝要となる。現時点で雄では対照マウスとヘテロAPOL1 Tgでリポ蛋白のコレステロールおよび中性脂肪含有量に変化を認めている。これはApoL1蛋白の機能の一端であることが推測されるが、アポ蛋白発現マウスでは想定された結果である。さらにホモAPOL1 Tg、雌マウスでもApoL1発現レベルと脂質プロファイルや酸化ストレス定量を行うことで、ApoL1発現レベルとリポ蛋白量、脂質組成、酸化ストレスレベルとの相関を明らかにしていく。アポ蛋白はリポ蛋白機能を担う。ApoL1機能として抗酸化作用が推測されており、マウス検体で酸化ストレス・抗酸化能を定量化しApoL1による脂質プロファイル変化が機能変化に結びつくものかどうか、より効率的かつ確かな結果が得られる。次にFGFおよびピューロマイシン投与によりネフローゼ症候群モデルを作成する。このモデルは一過性の高度蛋白尿を認めるが、これまでの検討でAPOL1 Tgにおける尿蛋白減少効果を確認している。対照マウスにAPOL1 Tg由来血清を投与する系で、その治療効果を検討する。また、腎臓のRNAarray等で腎臓で酸化ストレスや炎症関連分子の発現解析をすることでメカニズムを明らかにする。 腎臓病患者および健常者から血清、尿を採取し血清ApoL1蛋白濃度とともに、脂質、肝腎機能、血糖、アディポネクチンや尿蛋白などの血液・尿生化学、さらには酸化ストレスを測定し、各パラメーターを用いた多変量解析を行う。腎臓病患者では腎機能低下に伴い酸化ストレスが増加することが知られている。腎機能低下の各段階で血清ApoL1蛋白と酸化ストレスとの相関関係を解析し、腎臓病における血清ApoL1蛋白の機能を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回の研究ではトランスジェニックマウスを用いるin vivoの系が研究計画の柱の一つである。使用するAPOL1 Tgは当該年度初頭には個体化し繁殖を開始する計画であったが、個体化・搬入の過程が遅れたため、実際には10月以降の搬入・繁殖開始となった。個体化マウスはヘテロマウスである。アポ蛋白機能はその血清レベルも影響することが想定されるため、基礎データ採取には雌雄の対照マウス、ヘテロおよびホモAPOL1 Tgを用いた検討が重要となる。そのため必要個体数をそろえるため繁殖を続けている。研究を進めるための必要物品は検体測定用ELISAキットや各種抗体、モデル作成用の試薬であるが、試薬の劣化防止や想定外の結果に対して柔軟に対応することで無駄をなくすために、必要なマウス個体数がそろうことを見越して適時取り揃えているため、当該年度内の繰越金が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のようにマウス個体化の遅れのための初年度のin vivo実験は遅れているものの、現在順調に繁殖が進んでおり、予定通り基礎データ採取およびマウス障害モデルによるApoL1の機能解析を続けていく。マウス繁殖を促すために、繁殖スペース拡大を行いつつ、マウス飼育、基礎データ測定、障害マウス作成・定量評価、治療実験、発現分子解析等々必要な予算を使用していく。一方ヒト検体を用いた臨床研究は予定より早いタイミングで研究承認、検体採取、解析などの計画が進捗しており、測定に関わる経費はある程度予定通り使用されており、次年度は当該年度繰越金も含め確実に使用される。
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