本研究の目的は、iPS細胞技術を利用し、我々がこれまで独自に開発した分化誘導法を用い、ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞を生体に移植することによって、腎性貧血の生理的治療を行う細胞療法の開発することである。平成29年度は、マウスiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞を作製し、マウスへ自家移植することを計画していた。まず、ヒトiPS細胞を用いたエリスロポエチン産生細胞の分化誘導法を改良することにより、マウスiPS細胞からもマウスのエリスロポエチン産生細胞を分化誘導することに成功した。また腎性貧血モデルマウスとして、アデニンを経口投与することにより、中等度の腎臓間質障害と腎性貧血を呈するモデルを作製することができた。移植部位の検討も行い、腎被膜下に細胞塊を移植することにより腎性貧血を改善し、細胞移植部位から分泌されたエリスロポエチンがマウス血中へ移行することも確認した。さらには免疫隔離デバイスにエリスロポエチン産生細胞を充てんし、臨床応用の可能性について検討した。マウスからiPS細胞を樹立し、エリスロポエチン産生細胞に分化誘導し自家移植を行うことを目的に実験をさらに進めている。平成29年度の研究成果で確立したエリスロポエチン産生細胞移植法は、今後ヒトへの移植において応用可能であると考えており、本研究成果は渇望されるヒトiPS細胞を用いた生理的な腎性貧血治療法開発に直結するものと考えている。
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