研究課題
リンによる臓器障害の病態や機序を解明するため、野生型マウスを高リン食で飼育することにより腎障害を誘発するモデルを作成した。このモデルでは食餌中のリンが容量依存的に線維化や炎症細胞の浸潤を中心とする腎臓の組織障害がみられた。さらに、これを示唆する様々な分子マーカーの変化も確認することができた。これらの変化は片腎を摘出されたマウスでより顕著であったことより、リンによる腎障害は残存する腎機能(残存する機能ネフロン)あたりの腎臓に対するリン負荷量(尿中リン排泄量)が大きく影響していると考えられた。リンによる臓器障害を、リンが単独で誘発するのか、もしくはリンがカルシウムと結晶を形成しFetuin-Aなどの蛋白と結合したCalciprotein particle(CPP)と呼ばれるコロイド粒子複合体が誘発するのかを検討するため、上記のマウスモデルにCPP形成抑制物質のひとつであるビスフォスフォネートを投与して、同様に検討した。ビスフォスフォネートによる治療はコントロールと比較して有意に腎臓における病的変化の誘発を抑制した。さらに腎臓の近位尿細管細胞由来のHK-2細胞を用いたin vitroによる検討で、培養液中のリンの濃度を上げることによる炎症や細胞障害マーカーの上昇が、CPP形成抑制物質であるビスフォスフォネートまたはクエン酸を添加することで有意に抑制された。ビスフォスフォネートやクエン酸の添加した培養液中にはCPPの形成が著明に抑制されていたことも確認した。これらの結果より、リンによる臓器障害はリンが主要構成成分であるCPPなどの複合体により誘発されることから、リンによる臓器障害の病態や機序として、CPPが細胞障害や自然免疫反応を誘導し、慢性炎症や臓器障害を引き起こす「CPP病原体説」が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の申請前より行っていた予備実験とほぼ同様の結果を再現することができ、多方面からの解析により仮説を確認するための検討もできた。病態の標的となる化合物の投与や標的遺伝子を改変した動物の作成など、次の段階への準備も進みつつある。
平成27年度にリンによる臓器障害の機序として「CPP病原体説」を確認することができたため、今後はCPPがどのように病態に関与しているかを検討する。特に、予備実験でCPPが自然免疫反応の受容体のひとつであるToll-like receptor 4(TLR4)と結合し、腎尿細管細胞や炎症細胞などで特異的なシグナルを伝達することが確認されていることから、CPPのレセプターの候補としてTLR4を標的にした検討を行う。そのため、TLR4欠損およびTLR2欠損、さらにTLR2と4の二重欠損マウスを用いたin vivoでの検討や、これらのマウスの腎臓から尿細管際細胞を採取しin vitroの検討などを計画している。
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PLoS One
巻: 11(2): ページ: e0150093
10.1371/journal.pone.0150093
Int J Endocrinol
巻: 2015 ページ: 406269
10.1155/2015/406269
http://www.jichi.ac.jp/laboratory/molecula/genome/index.html