研究課題
前年度に、リンによる臓器障害モデルとして、野生型マウスを高リン食で飼育する腎障害モデルを確立し、リンによる腎障害の機序としてリンがカルシウムと結晶を形成しFetuin-Aなどの蛋白も結合したCalciprotein particle (CPP)と呼ばれるコロイド粒子複合体が関与していること、すなわちCPPが細胞障害や自然免疫反応を誘導し、慢性炎症や臓器障害を引き起こす「CPP病原体説」を提唱した。今年度は「CPP病原体説」に関与している分子について検討した。細胞表面に存在するToll-like receptor 4 (TLR4)は尿酸結晶などさまざまな結晶を認識し細胞障害や炎症反応に関与していることが多数報告されていることより、食事由来のリンにより形成されたCPPが細胞表面のTLR4に結合しTLR4シグナルの活性化が臓器障害に関与している、との仮説を基にTLR4欠損マウスに同様の高リン食を負荷した。野生型マウスで確認されていた腎臓の線維化や炎症反応の浸潤などの組織学的変化は有意に抑制され、これを示唆するさまざまな分子マーカーの変化の有意な改善も確認できた。さらにTLR4欠損マウス由来の腎尿細管細胞とCPPとの共培養による検討により、野生型マウス由来細胞で確認されていた細胞障害や炎症、これらを示す分子マーカーの変化が有意に抑制されたことにより、CPPがTLR4に作用し腎障害を誘発することが確認できた。さらにCPPがTLR4シグナルを介するNF-κBの活性化に関与していることもレポーターアッセイにより確認されている。これらの結果より、リンによる臓器障害の機序のひとつとして、リンが細胞外液中でCPPを形成し、CPPがTLR4を介して臓器障害を誘導する、ことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
前年度より予定していた、CPPを感受する機序の一つとしてTLR4の関与を、in vivoとin vitroの両方の実験により確認することができた。高リン食により、高濃度のリンが尿細管腔内でCPPを形成し、CPPがTLR4を介して腎障害を誘発する現象の確認は、リンによる臓器障害の機序の解明に貢献できたと考えられる。
リンによる臓器障害の機序として、リンが細胞外液中でCPPを形成し、CPPのTLR4を介した臓器障害の誘導について、TLR4シグナルと関連分子の変化、リンにより誘導されたTLR4を豊富に発現している炎症細胞の役割、またTLR4以外のCPP感受機構などの解明についての研究を計画している。
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http://www.jichi.ac.jp/laboratory/molecula/genome/index.html