慢性腎臓病では心血管イベントの発症率が有意に高いことが知られている。両者の関係は「心腎連関」という言葉で表現されるが、とくに慢性腎臓病においては血管石灰化病変および心臓弁膜石灰化病変の形成・進行が、心血管イベントの発生に大きく関与しており、それらの心血管病変を克服することが患者の生命予後を改善するものと期待されている。本研究では、慢性腎臓病における血管石灰化の分子機構の解明と治療標的分子の同定を目標として、培養細胞およびモデル動物を用いて検討を行った。 本研究では、まず慢性腎臓病における血管石灰化モデルマウスを新たに樹立した。これまで、慢性腎臓病のマウスに石灰化病変を引き起こすことは、非常に難しいと考えられてきたが、今回はDBA/2系統のマウスを用いて、それらに慢性腎臓病を引き起こすと、高リン食投与時に著明な血管石灰化が形成されることが明らかとなった。この血管石灰化は、高リン血症治療薬を投与すると減弱することから、慢性腎臓病で認められる高リン血症は血管石灰化の強力な促進因子であることが確認された。さらに、この慢性腎臓病マウスでは高サイトカイン血症を呈しており、サイトカインの阻害薬を投与することによっても、血管石灰化の形成を抑制できることが判明した。さらに、サイトカインのシグナル伝達物質であるNF-kBを血管平滑筋内において選択的に抑制した場合も血管石灰化が抑制されることから、血管平滑筋局所での慢性炎症が石灰化に関与することが明らかとなった。高リン刺激とサイトカイン刺激の血管石灰化への相互作用は、培養血管平滑筋細胞を用いた検討によっても確認された。今後、血管平滑筋細胞内でのNF-kBシグナルを治療ターゲットとした創薬が血管石灰化の新たな治療標的となる可能性が示された。
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