研究課題
IgA 腎症の病態には糖鎖異常IgA1 の産生が亢進すること(Hit 1)と糖鎖異常IgA1と免疫複合体を形成するIgGやIgAの産生が亢進し(Hit 2)、高分子目根気複合体を形成する(Hit 3)ことが病態の鍵になっていると考えられ(Multi-Hit病態仮説)、扁桃炎などの感染を契機に増悪・進展する。本症は扁桃を主体とした粘膜免疫の応答異常が関与しており、なかでもToll like receptors(TLRs)が本症の進展に深く関与すると考えられている。さらに、B cell activating factor (BAFF)やa proliferation-inducing ligand(APRIL)によりIgA 産生が亢進することが示唆されている。本研究では、TLRs の応答制御異常によるBAFF/APRIL 活性化を介した糖鎖異常IgA1 免疫複合体形成機序を解明することを目的とした研究である。IgA 腎症の発症と進展におけるTLR7 とTLR9 の応答制御異常について、IgA 腎症モデルであるddYマウスを用いて解析したところ、TLR9の活性化が腎炎の進展を規定していることが明らかとなった。TLR9活性化により血清IgA、IgA-IgG免疫複合体、糖鎖異常IgAの産生の増加がみられた。TLR9の活性化により、脾臓におけるBAFFやAPRILの発現上昇が確認された。APRILの発現量と糖鎖異常IgA産生およびIgA-IgG免疫複合体の形成が相関することが明らかとなった。TLR9とAPRILをつなぐ因子が不明であったが、TLR9の活性化はIL-6を誘導し、IL-6の発現亢進に伴いAPRILが誘導されることが示唆された。ヒトIgA1産生細胞株を用いた検証においても、TLR9の活性化を誘導することで、APRILの発現が亢進することが確認された。
2: おおむね順調に進展している
IgA腎症の発症と進展におけるTLR7とTLR9の応答制御異常について、IgA腎症モデルであるddY マウスを用いて解析した。TLR9の刺激を誘導することで、糸球体のIgA、IgGの沈着増加を伴った腎炎の重症化を引き起こすことが明らかとなった。TLR9の活性化により、血清IgA、IgA-IgG免疫複合体の産生量が増加し、糖鎖異常IgAの産生亢進が誘導されたことによるものと考えられた。TLR7/9の阻害実験では、TLR7の抑制では、糸球体のIgAの沈着は抑えられたものの、IgGの沈着は残存した。しかし、TLR9を抑制することで、糸球体IgA、IgG沈着のいずれも軽減させることができ、血清IgA、IgA-IgG免疫複合体、糖鎖異常IgAの産生を抑制することができた。次に、TLR9の活性化と腎炎惹起性IgAの産生のメカニズムについて検証を行った。TLR9の活性化を誘導することで、脾臓におけるBAFFとAPRILの発現亢進が確認された。しかし、BAFFよりもAPRILの発現亢進と糖鎖異常IgA産生およびIgA-IgG免疫複合体の形成が相関することが確認された。TLR9の活性化とAPRILの発現亢進をつなぐ機序は不明であったが、我々が近年報告している糖鎖異常IgAの産生誘導を引き起こすIL-6に着目した。TLR9の活性化がIL-6を誘導し、IL-6の発現亢進に伴いAPRILが誘導されることが明らかとなった。ヒトでも同じ現象が誘導されるのかを確認するために、ヒトIgA1産生細胞株を用いた検証を行った。CpG-ODNを用いてTLR9の活性化を誘導することで、IL-6の発現が亢進し、APRILの産生が増加することが確認された。その結果として、糖鎖異常IgA1の産生亢進が認められた。
これまでの研究の進捗は概ね順調であり、今後のIgA腎症の治療につながる結果が得られている。今後のテーマは、マウスからヒトへのさらなる展開が重要である。ヒトIgG産生細胞株において、TLR9 のリガンドによる刺激にて、Gd-IgA1 特異的抗体産生の亢進を検証する。また、IgA1産生細胞株とIgG産生細胞株を用いて、BAFF・APRIL・TACIの発現の変化とGd-IgA1 およびGd-IgA1 特異的抗体産生との関連を解析する。そのことで、いずれの分子を抑制することで、最も効果的に糖鎖異常IgA1免疫複合体の形成を抑えることができるのかが明らかになると思われる。さらには、TLR9・BAFF・APRIL・TACI に対し、中和抗体やsiRNA を用いて、Gd-IgA1およびGd-IgA1 特異的抗体産生の効果的な抑制効果を検証する。
これまでの研究計画では概ね順調に進んでいる。しかし、本年度は、治療に直結する分子標的の科学的証明を行うべく、抗体精製、siRNA等の研究にかなりの予算がかかることを推定し計上していた。
本年度は、分子標的薬の礎となるように、抗体精製、siRNA等の研究に予算計上を考えている。さらに、次年度からは本研究の成果を国内外の学会で発表していくことを考えている。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件)
Nephrol Dial Transplant
巻: 31 ページ: 80-86
10.1093/ndt/gfv232
Immunobiology
巻: 221 ページ: 577-585
10.1016/j.imbio.2015.12.001
J Am Soc Nephrol
巻: 27 ページ: 3278-3284
10.1681/ASN.2014101044
J Nephrol Ther
巻: 6 ページ: 240-246
10.4172/2161-0959.1000240
BMC Cardiovasc Disord
巻: 13 ページ: 181-189
10.1186/s12872-016-0341-0
Dis Markers
巻: 2016 ページ: 1-6
10.1155/2016/7806438
Kidney Res Clin Pract
巻: 35 ページ: 233-236
10.1016/j.krcp.2016.09.002
Nephrology Frontier
巻: 15 ページ: 16-19