研究課題
腎臓は肝臓とともに糖新生を行うことのできる臓器である。特に、絶食時には糖新生の40%を腎臓が担うので、腎臓の糖新生を調節することは糖尿病の新たな治療戦略になり得る。当研究室では腎組織レニン・アンジオテンシン系(RAS)が糖尿病では近位尿細管のアンジオテンシノーゲンのエンドサイトーシスの亢進により活性化され、またエンドサイトーシスに重要な役割を果たすH+-ATPaseの制御により、腎RASが抑制されることを検討してきた。1型糖尿病モデルではRAS阻害薬のテルミサルタンにより腎臓の糖新生が抑制され、絶食下での血糖が有意に低下した。近位尿細管のエンドサイトーシスを抑制するためにH+-ATPaseの阻害薬(バフィロマイシンBFM)を投与すると糖尿病では増加している腎臓の糖新生酵素ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼPEPCKとグルコース-6ーホスファターゼ(G6Pase)が、有意に抑制された。H+-ATPaseは近位尿細管の小胞のmembrane recyclingにも関連しており、ナトリウム・グルコース共輸送体SGLT2の発現もBFMで抑制された。さらに2型糖尿病ラットモデルにおいてインスリン糖負荷試験によりインスリン抵抗性が改善することを確認した。2型糖尿病ラットの腎臓の蛋白発現を質量分析で解析するとミトコンドリアのアンモニア産生と糖新生が連動して働いており、BFMはよりミトコンドリアで作用していることが分かり今後の検討を予定している。予想に反し、腎内のレニン及びアンジオテンシノーゲンの量はBFM治療で変化が少なかった。H+-ATPaseの阻害は有意に血糖を低下させる新たな治療標的になり得る。しかし、全身への影響もあり、今後はより腎臓特異的に阻害した場合の検討を要する。
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