研究実績の概要 |
短期のリン負荷では腎におけるEPO発現は減少するものの貧血までは生じなかった。一方、長期のリン負荷をかけることで貧血が惹起されることは確認できたものの、腎組織のコラーゲン組織の増生や線維化関連遺伝子の上昇も見られ、結果的に腎線維化が惹起されていることが判明した。このことは、リン負荷が腎性貧血を惹起することを観察したことになっても、当初の仮説である、「リン負荷は腎機能を悪化させずに貧血を惹起する」というリン性貧血の概念が成立しないことを示す。 このことより、我々は当初の仮説を放棄して、長期的なリン負荷が寿命を短くすることがげっ歯類でも成立する可能性を探求することに方針を変えた。このことを証明するために、正常食マウスにリン吸着薬を投与することで、寿命延長が見られるかを長期の実験で調べることにした。具体的には、C57BL/6マウスのオス27匹、メス27匹に対して、6週例からMF diet, MF diet+1.5%炭酸ランタン、MF diet+3.0%炭酸ランタンの3種類の食事を投与し、2年間に渡って調べた。その結果、メスでは寿命に差が全く見られなかった。一方オス群では、1.5%炭酸ランタン追加をしても寿命は延びていなかったが、3.0%炭酸ランタン追加群で明瞭に寿命が延びていた。メス群では、閉経によって血清リン値が上昇するために、リン摂取量に寿命が依存していなかったのかもしれない。オス群でリン制限でなぜ寿命に差が見られたのかを病理組織で現在検証中であるが、腎機能に有意な差があったことから、低リン食が加齢による腎機能の悪化を抑制することで、寿命を延ばした可能性があり、今後機序を詳細に検証する予定である。
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