この2年間の研究では、短時間灌流実験時と同様の生きの良い尿細管を一晩のインキュベーション後に得ることができず、研究が進まなかった。また、細いヘンレの上行脚(平成27年度)や太いヘンレの上行脚(平成28年度)などを用いて検討したが、いずれの分節を用いても、実験開始24時間以降に尿細管機能を検討できるような尿細管状態を維持することが困難だった。平成28年度には、溶液が37度であることが細菌の増殖を惹起しているのではないかと推察し、室温で集合尿細管を用いたflux studyによって水透過性を測定し得ることを確認できたが、siRNAを導入できるような長時間灌流を維持することはできなかった。そこで、最終年度は灌流システムを抜本的に見直した。灌流液の温度をより精密に制御するために、サーモプレートとチューブヒーターを購入し、チャンバー内の溶液温度が37度前後で一定になるように設定した。さらに、溶液のpHを7.4前後に維持するため、可能な限り回路を短くしたり、観賞魚用のエアポンプを流用してインキュベーター内の溶液(重炭酸イオン含有)を十分に撹拌することで、pHが既存のシステムよりも飛躍的に安定した。さらに、培養液MEMαに抗菌薬、抗真菌薬、抗マイコプラズマ薬を添加して、病原体の混入が少なくなるようにした。これらの工夫により、24時間後に経上皮電位を測定することが可能となり、尿細管の外観も灌流開始時とほぼ遜色がない程度にまで維持することができた。ただ、48時間後になると今回の研究期間に行った条件では、細菌の混入を回避することは不可能で、実験を継続できる状況を作り出せなかった。この点をクリアできれば、本研究の目的であるsiRNAを尿細管細胞に導入することが可能になると考えられた。
|