慢性腎臓病(CKD)患者では、心臓血管病(CVD)の発症頻度が高く、CVDによる死亡が死亡の主因となっている。この理由を高血圧や高脂血症などの古典的な要因だけで説明するのは難しく、CKDにおいて発症頻度が高い血管石灰化が寄与していることが報告されてた。したがって、血管石灰化を治療することができれば、CKD患者のCVD発症や死亡を減少させることができると考えられる。CKDにおける血管石灰化は、リン(P)の蓄積およびカルシウム(Ca)負荷が主因であることが明らかになっており、現在、Ca非含有P吸着薬やCa受容体刺激薬の投与により血清P濃度および血清Ca濃度の上昇を抑制して血管石灰化の進展を抑制しようと試みられている。しかしながら、血清P濃度を常に正常にすることは困難であるため、血清P濃度が高くても血管石灰化の進展抑制や退縮が可能な、臨床的に有用な治療法の解明が待望されている。 そこで、今回、ヒト血管平滑筋細胞にPを負荷することによって誘導される石灰化および骨芽細胞様形質変化を抑制する治療法とそのメカニズムを探索した。 Ca受容体刺激薬の投与は、PのトランスポーターであるPiT1の発現を、25-水酸化ビタミンDの投与は、PのトランスポーターであるPiT2の発現を、ビスフォスフォネート製剤であるエチドロネートの投与は、Ca-Pクリスタルの形成を抑制し、糖負荷後の糖制限はSIRT1を活性化して、血管平滑筋細胞の骨芽細胞様変化および石灰化を抑制した。多くの治療は石灰化の進展抑制が不完全であったが、エチドロネートは石灰化の進展をほぼ完全に抑制した。一旦形成された石灰化を退縮させるには単球の破骨細胞様変化が必要であると考えられるが、エチドロネートは単球の破骨細胞化を抑制したため、単独では退縮治療に不適であると考えられた。今回試みた治療では石灰化の退縮は難しく、今後更なる検討が必要である。
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