研究課題
ALS/FTLDの高次機能障害における成体神経新生 (adult neurogenesis)の役割の解明をマウスモデルとALS/FTLD剖検脳における検討から行った。ALS/FTLDの原因遺伝子であるFUSをAAVにshRNAを発現させることで全海馬において抑制したマウスモデルではFTLD様の情動異常を来たすが、同時にタウisoformの発現変化を介して海馬歯状回におけるadult neurogenesisを抑制する。このFUS抑制マウスに対してヒト野生型FUSを海馬特異的に発現させる実験(FUS発現回復実験)を行った。AAVの濃度を振って内在性のマウスFUSとほぼ等量にヒトFUSを発現する量を同定し、そのマウスを解析した。その結果ヒト野生型FUSをFUS抑制マウスの海馬に発現させることで、FUS抑制によって生じたタウisoformの発現変化(4R-tauの増加と3R-tauの低下)を回復することができた。しかし、ALS/FTLD関連変異であるR521G変異を有するヒトFUSをFUS抑制マウスの海馬に発現させる実験では、FUS抑制によって生じたタウisoformの発現変化は回復しなかった。同様に、ヒト野生型FUSの発現はFUSに抑制によって生じた情動異常(多動、不安の欠如、社会性の低下など)を改善させたが、R521G変異を有するヒトFUSの発現では回復できなかった。さらにBrdU取り込みassayなどにより評価を行った結果adult neurogenesisについても、ヒト野生型FUSの発現によってFUS抑制に伴うadult neurogenesisの低下が改善することを見出した。一方でR521G変異を有するヒトFUSの発現ではFUS抑制によって生じたadult neurogenesisの低下の改善は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
ALS/FTLDの高次機能障害における成体神経新生 (adult neurogenesis)の役割の解明をマウスモデルの検討を中心に行った。FUS抑制マウスに対してヒト野生型FUSを海馬特異的に発現させる実験(FUS発現回復実験)はほぼ完了した。ヒト野生型FUSではレスキュー効果を明らかに認めることができたが、ALS/FTLD変異(R521G)を有するFUSではレスキュー効果が認められなかった。このことはALS/FTLDの高次機能障害におけるadult neurogenesisの役割を強く示唆するものであり、またヒト野生型FUSのレスキュー効果としてタウisoformの発現の正常化が認められたことより、タウの病態への関与についても強く示唆された。
FUSの発現回復実験より研究期間早期に興味深い知見を得ることができたため、このモデルの長期的な観察を引き続き行っていく。当初計画どおり、海馬萎縮抑制効果についての検討に着目していく。また、ALS/FTLD患者における尾状核の病理に着目してFUS、tau、adult neurogenesisについて免疫組織学的な手法を中心に解析を進めていく。
1月以降に使用した実験動物施設使用料の支払いが平成28年度になる。
本年度より翌年度にかけて予定している実験動物関連への支払いに充当する。
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