研究課題
パーキンソン病(PD)の病態の発症・進展の分子基盤として、細胞外に分泌されたα-シヌクレイン(A-syn)のオリゴマーが重要である。これまでに、培養細胞系や動物モデルで合成A-syn分子を重合させた分子の細胞間伝播が確認されているが、実際にヒトの血液・髄液でA-synオリゴマーがどのような分子形態で存在するかは明らかになっていない。我々は前年度(H27年度)までの検討で、PDではない対照患者(頭蓋内圧亢進症、正常圧水頭症)の血漿中のA-syn分子(オリゴマーを含む)について、我々が自ら開発したA-syn特異的ELISAで検討し、A-synは主としておよそ60kDaと2000kDaに相当する画分に回収されることが明らかになった。たが、その間の画分にも少量存在した。これらについては、約2000kDaの画分はLDL画分にほぼ相当し、従来想定されていたエクソソームが存在する画分よりも分子量の小さい画分であった。このような結果をもとに、今年度(H28年度)は、A-synおよびそのオリゴマーと脂質画分とのassociationを検討した。脂質画分の調整には、NaBrによる浮上分画遠心法とSuperose6カラムをタンデムで連結して高分子領域の分取を可能にした分子篩クロマトグラフィーの2つの方法を用いた。いずれの方法によっても、VLDL・LDL・HDLの各画分が分取できていることをコレステロールおよびトリグリセリド濃度と抗アポタンパク抗体によるwestern blotting(WB)で確認した。分取した脂質画分を、脱塩後に抗A-syn抗体による免疫沈降とWBを行った結果、A-synはLDLおよびHDL画分に存在することがわかった。以上の結果から、A-synは血漿中では主としてリポ蛋白パーティクルであるLDL,HDLと共存していることが明らかになった。
3: やや遅れている
H28年度に予定していた血漿中におけるA-synと脂質画分との関連性の検討については、A-synとassociationするリポ蛋白画分が明らかになり、ほぼ予定通りに進行している。血漿および髄液中のA-synオリゴマーの存在様式およびその蛋白化学的性質の同定に関しては、血漿中A-synについては予定通り進行しているが、髄液中A-synについてはその存在量が少ないことが問題となってまだ十分な解析が行えていない。
今後は、これまでの方針通りに、まずは血漿中のA-synおよびそのオリゴマーについて、その存在様式、蛋白化学的性質およびassociateする脂質・アポリポ蛋白などを明らかにする検討を継続する。髄液中A-synについては、血漿中の高分子A-synの分子組成が明らかになった時点で、それらの分子に対する特異抗体を用いた検出などを行い検出の高感度化を検討する。また、前年度の我々の検討では血漿中エクソソーム画分はA-synが主として存在する画分ではなかったが、国内外からはエクソソーム中のA-syn分子(とくにオリゴマー)の重要性が指摘されているので、PD患者の血漿及び髄液からエクソソームを分離して、そこにA-synのモノマーあるいはオリゴマー存在するか否か、およびPD患者では対照者と比較してどのような質的・量的変化をしているかを検討する。
A-synオリゴマーの解析・定量に使用するビオチン化A-syn抗体の作製およびそれを用いたSimoa定量系の開発に予想以上に時間を要したために、年度内での消耗品の消費ができず、年度をまたぐことになった。
新年度(H29年度)になって、ビオチン化A-syn抗体の作製に必要な消耗品費は既に使用している。
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