研究課題
我々は既にケトン体の1つβヒドロキシ酪酸(BHB)が、脳虚血刺激によりアストログリアにおいて産生、放出されることを明らかにした。一方、ケトン体自体のもたらず種々の脳保護作用とフマル酸ジメチル(DMF)との関連が注目されている。DMFはもともと尋常性乾癬の治療薬として古くから使用されていたが、近年多発性硬化症(MS)の再発予防に有効であることが判明し、本邦でも昨年MSの再発抑制効果に対する承認を得ている。その作用機序としてはnuclear factor-kappa B(NF-κB)を介した炎症を抑制する作用や、nuclear factor erythroid 2- related factor 2(Nrf2)を介した組織保護作用が提唱されており、これらの経路は脳梗塞急性期の神経障害に対する保護作用をもたらす可能性を示唆する。一方、DMFおよびBHBがhydroxycarboxylic acid receptor 2(HCAR2)に対するリガンド作用を介しミクログリアを神経保護的な形態に変化させる作用が注目されている。本課題におけるアストログリア由来のケトン体の脳保護作用を、第3のグリア細胞であるミクログリアとの関連で検討するため、フマル酸ジメチルがマウス脳梗塞急性期モデルにおいて神経保護効果を検証した。培養細胞においてDMFはNrf2活性化を惹起し、qRT-PCRによるHO-1転写亢進が確認された。脳梗塞モデルマウスに対する経口投与においても有意に梗塞巣の体積を縮小し、運動機能にも改善効果をもたらした。しかし、その作用には培養細胞で確認されたミクログリアにおけるNrf2活性化作用にも拘わらず、Nrf2ノックアウトマウスにおいても脳梗塞縮小効果が維持されるなど、相反するデータが取得されたたため、DMFやBHBの作用機序は慎重に検討する必要がある。
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