研究課題/領域番号 |
15K09348
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 俊宏 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60505890)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 安静時fMRI / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
本研究計画は,アルツハイマー病の大規模臨床観察研究である米国のアルツハイマー病神経画像戦略において取得された安静時fMRI のデータを用いて,ロバストな前臨床期AD の画像バイオマーカー開発を目指すものである. 高齢者の安静時fMRIデータは,高齢者の撮像中の体動の大きさが若年者と比較して大きいことが,解析の支障となっている.高齢者に特化した体動ノイズに対処する強力な画像前処理を行うために,fMRI データのノイズプロパティ分析を行い,一番主要なノイズ源は体動によるものだと確認した.その対応方法として,サルでのfMRI(Science 2002)を報告した際と同様に,動作補正の剛体運動パラメターを用いたリグレッションのみならず,スパイク的な体動を示したスキャンに対するリグレッションも有効であると確認した.また,独立成分分析を用いて,体動を含めたアーティファクトのコンポーネントデータを集積した.これらをテンプレートとして用いることにより,各種のアーティファクトを選択的に除去できるシステムを構築することが出来る見通しである. また,前臨床期アルツハイマー病ではデフォルトモードネットワークの機能低下が重要な所見であるが,デフォルトモードネットワークもサブネットワークから構成されるとの報告があり,その構成要素の機能分化を知ることは,本研究の目標である,前臨床期アルツハイマー病の病態に即した関心領域設定と新指標の開発解析には重要である.今回,後部帯状回とその主要連絡線維である脳弓に圧排をしめした松果体腫瘍の症例を調べる機会を得て,記憶のサブコンポーネントを詳細に解析したところ,脳弓は記憶想起に特異的に重要であり,再認には影響が少ないことを示したため,Neurologyに報告した.初期のアルツハイマー病では想起は障害されても再認は保たれることが多く,関心領域設定に有用な知見だと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のロバストな前臨床期ADの画像バイオマーカー開発を達成するには,それぞれ以下の 3 つの要素を解決することが重要であると考え,研究計画を立てた. 1 高齢者に特化した体動ノイズに対処する強力な画像前処理 2 ノイズにロバストな関心領域設定と統計解析法 3 前臨床期AD の病態に即した関心領域設定と新指標の開発 本年度は,1.の体動の伊豆に対処する前処理方法に関して,予備実験にて有効性を確認できた.また,3.の前臨床期ADの病態に即した関心領域設定に関して,松果体腫瘍の術前後での記憶機能を調べることにより記憶の機能分化による新たな知見を得た.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,初年度はfMRI データのノイズプロパティ分析を主に行うことにより一番主要なノイズ源である体動アーティファクトの問題を改善できる目処がたったため,次年度以降で,DMN に残存するノイズを精査したうえで,ノイズにロバストな関心領域設定と統計解析法を行う.その際,先に述べた想起・再認記憶の二重解離の知見も援用して,最近の病理学的研究で示された3割に上る非典型的亜病型 (Whitwell et al, LancetNeurol 2012)も対応しうる関心領域を設定する.そして起点相関法を用いた機能的神経結合を求めて,亜病型に即した加重を用いた指標を開発して,前臨床期ADの画像バイオマーカーとして従来のDMN由来の指標との優劣を比較する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
ハードドライブや無停電電源装置が予定よりも安価に調達できたなどで支出が若干減少し,また統計解析ソフトウエアを次年度に購入する予定に変更したため.
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次年度使用額の使用計画 |
統計解析ソフトウエアとそのオプションの購入に充てる予定である.
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