最終年度はこれまでに得たウサギ海馬体ー海馬周辺皮質間領域間線維連絡の新知見(東京農工大の連携研究者と共同)をまとめ、原著論文にて報告した。具体的には、ウサギにおいてもラットと同様の海馬体ー嗅内野間投射関係(貫通線維束などに代表される主要な線維連絡)が認められ、更にラットに見られないCA1から前海馬台への直接投射などが主要線維連絡として加わっていることがわかった。またウサギでは嗅内野内部の海馬体投射起始細胞分布がラットと同様の帯状を呈することなど重要な法則性を発見できた。更に当初の計画通りコモンマーモセットを用いた標識物質注入実験(愛媛大学、防衛医大、都医学研の連携研究者と共同)を開始し、得られた所見を日本解剖学会総会・全国学術集会にて報告した。 研究期間全体の成果としては、これまでの全知見から正常ラット、ウサギ、マーモセットにおける海馬体ー前海馬台ー嗅内野間の線維連絡の全貌を把握し、それらを比較して相違点や共通点を抽出することにより、齧歯類~霊長類に共通する神経線維連絡すなわち記憶形成回路の基盤と考えられる高度に保存された部分や、動物種特異的な線維連絡(特にCA1を起始とする前海馬台への投射や、前海馬台ー嗅内野間の双方向性投射など)を明らかにすることができた。特に最終年度のマーモセットの実験過程では、海馬体ー嗅内野投射関係においてラット・ウサギ同様の法則性(嗅内野内部における帯状ユニット)の存在を示唆する所見が得られた。またこれと平行してウイルスベクターを用いた単一ニューロンの軸索形態解析も進めた結果、ラット嗅内野ー歯状回投射に関わる嗅内野II層およびV層細胞の軸索分岐形態に関する新知見を集めることができた。これらの投射部位対応関係データを利用して、前年度までにラットで確立した片側嗅内野傷害実験手法をさらに効率良いものに改変し、動物実験モデルの構築を進めることができた。
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