研究実績の概要 |
糖尿病腎症新規バイオマーカーとしての MT3: 尿細管細胞における低酸素誘導 MT3過剰発現が糖尿病腎症病変の起点とすると、尿中 MT3 の糖尿病腎症の早期腎症バイオマーカーとして、臨床現場における応用の可能性が考えられる。そこで、旭川医科大学病院糖尿病内科外来通院糖尿病患者の尿検体中の MT3 を、ELIZA キット(MyBioSource, San Diego, CA)を用い測定し、現行の腎機能指標との関連性、更には予後予測指標としての可能性について検討した。 ①対象:2型糖尿病症例で約5年間年間観察可能であった18例(女性10名、男性8名、平均年齢65歳)。②検討項目:a. 尿Metallothionein 3/Creatinine (MT3/Cr). b. 尿N-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG)/Creatinine(Cr)c. 尿Albumin/Creatinine (ACR) d. eGFR e. ⊿eGFR(ml/min/1.73m2/年)③統計学的手法:尿中指標は非正規分布を呈することより、対数変換後、Spearman解析の両側検定により、p<0.05を有意とした。④結果:a. MT3/Crは尿細管指標であるNAG/Crとは相関を認めなかった(r=-0.153, p=0.533)。b. MT3/Crは糸球体指標であるACRを強い相関を認めた(r=0.470, p=0.042)。c. MT3/CrはeGFRとはほぼ相関を認めなかった(r=0.064, p=0.700)。d. MT3/CrはeGFR変化率(⊿eGFR(ml/min/1.73m2/年) と強い相関を認めた (r=-0.496, p=0.036) 。e. ACRは⊿eGFRと相関を認めなかった (r=-0.100, p=0.693) 。f. MT3/Cr測定値が4.76以上の症例は、eGFRの年間低下速度3 ml/min/1.73m2を超えたfast progressorであった。⑤結語:ACRは糖尿病腎症進行に対する強い予測因子であるが、末期腎不全や進行性eGFR低下に対する特異性と感受性を欠如している。一方、尿中MT3/Crは、5年後の腎機能(eGFR)の予後指標となる可能性が示唆された。糖尿病症例の尿中MT3の上昇が提示している糖尿病腎尿細管における低酸素状態が、腎予後を規定する因子であることが改めて明らかとなった。
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