研究課題/領域番号 |
15K09374
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
水上 浩哉 弘前大学, 医学研究科, 教授 (00374819)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | β細胞 / アミロイド / 大血管障害 / 急性心筋梗塞 / 2型糖尿病 / 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病(T2DM)は世界的に爆発的に増加している。その病因の一つにβ細胞容積の減少がある。ヒトにおいてはアミロイドの沈着がその促進因子であることがわかっている。一方、T2DMの合併症に急性心筋梗塞(AMI)などの大血管障害がある。しかしながら、大血管障害と膵島病変についての関連は未だ明らかになっていない。前年度までの研究で、T2DMでかつAMIの合併症例において膵島アミロイド沈着が促進されることが解明された。その結果、β細胞量の著明な低下がおきていた。そこで、今年度では、その沈着機序を解明するために膵島内の微小血管構築の変化に着目した。弘前大学医学部附属病院における剖検膵臓のうち、コントロール16症例、急性心筋梗塞(AMI)13症例、2型糖尿病(DM)14症例、T2DM+AMI 31症例に検討を加えた。膵島内の血管内皮細胞をCD34抗体で、周皮細胞をaSMA抗体でラベルした2重免疫染色切片を作成して、膵島内、周囲の血管密度、血管サイズ、周皮細胞に被覆された血管割合を測定した。その結果、膵島内の血管密度はコントロールとDMでは明らかな差は見出されなかったが、コントロールに比しAMI群では有意に増加していた(p<0.05)。AMI+DMでは膵島周囲の血管密度、血管サイズがAMI、DMに対し有意に増加していた(p<0.01)。また、周皮細胞に覆われた血管割合は、AMIの有無に関わらず、T2DMにより有意に減少することがわかった(p<0.01、コントロール vs DM、AMI vs AMI+DM)。さらに、血管の基底膜の厚さをPAM染色による病理切片で検討した。その結果、コントロールに比しAMIで、DMに比しAMI+DMで有意な基底膜の肥厚が認められた(p<0.01)。以上からAMIによる膵島内の微小血管の病理学的変化が膵島内のアミロイドの沈着を亢進している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は動物実験におけるβ細胞のDNA過剰メチル化について検討する予定であった。しかしながら、本研究はヒトにおける解析が主体なので、ヒトの解析を優先した。ヒトの膵島血管病変の解析はデータが十分得られてきている。マイクロダイゼクションを応用した膵島からのDNA抽出は、その品質、量を考慮すると実験に応用できる十分量はいまだ採取できていない。マイクロダイゼクションの機器メーカーとも密に連絡をとって、改善策を現在検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の予定は、1.膵島アミロイド沈着による急性心筋梗塞そのものに対する影響の検討、2.膵島におけるインスリンmRNAの発現、インスリン転写因子の発現解析、3.膵島細胞の脱分化の可能性、4.マイクロダイゼクションによるDNAの過剰メチル化の検討、5.論文の作成を行う。1.2においては昨年度までのデータでヒトにおける急性心筋梗塞がどのようにT2DMの膵島病変に影響を与えるか、ある程度解明ができた。それとは逆に、既報によるとアミロイドの原因蛋白であるIAPPが心不全を引きおこす可能性が報告されている。そこで、AMI+DMにおいてAMIと比し心臓病変でどのような違いがあるか病理学的検討を加える予定である。具体的には、剖検症例の心臓標本の臨床的データ、病理学的所見、線維化の程度、心筋細胞のサイズ、数の検討を行う予定である。また、アミロイド沈着によるβ細胞不全の程度を知るために、インスリンmRNAの発現解析、インスリン転写因子の発現を蛋白レベルで解析する予定である。3については、近年2型糖尿病で、β細胞の脱分化が広く報告されている。今回の大血管障害を伴った2型糖尿病症例でもそのような可能性がないかどうか、検討を加える予定である。4に関しては、引き続き検討を進めていく。そして、以上のデータをもとに平成29年度中に論文を作成する。
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