褐色脂肪細胞は、ブドウ糖や脂肪酸をエネルギー基質として非ふるえ熱産生をする臓器である。したがって、この臓器を利用して糖尿病の治療あるいは脂質異常症の治療、肥満の解消に利用することができるのではないかと考えられている。近年、新しい活性化因子の報告や褐色脂肪細胞様の性質を持つベージュ細胞への分化促進因子などが報告されている。 本研究で我々は、CXCL12-CXCR4が新規の褐色脂肪細胞活性化因子の一つであり、糖代謝に関連していることを明らかにした。 褐色脂肪細胞特異的にCXCR4を欠損したマウスにおいて、通常餌では体重、摂餌量、糖代謝に変化は診られなかった。一方、高脂肪餌を与えたCXCR4欠損マウスでは、体重と摂餌量の変化は 認めなかったが、糖代謝を悪化させた。また、褐色脂肪培養細胞に対してCXCL12を添加すると、褐色脂肪細胞活性化マーカーであるUCP-1とPGC-1aが有意に増加した。また、エネルギー基質として使用される脂肪酸代謝関連の遺伝子変化において、脂肪合成関連と脂肪酸取り込み遺伝子の増加を認めた。以上のことより、CXCL12-CXCR4経路は、褐色脂肪活性化に関与し生体内では糖代謝に影響を与える可能性がある。 本経路が糖代謝に関連することが明らかとなり、脂質代謝と基礎エネルギー代謝に関与する可能性があることが検討できた。今後、この経路を用いた糖尿病、脂質異常症、肥満の治療に応用できる可能性があり、さらに研究を推進し臨床応用に貢献できると考えられた。
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