研究課題/領域番号 |
15K09380
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
恒枝 宏史 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (20332661)
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研究分担者 |
笹岡 利安 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (00272906)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病 / エネルギー・糖質代謝異常 / オレキシン / 生体リズム / 睡眠 |
研究実績の概要 |
視床下部ペプチドのオレキシンは脳内で日周性に増減を繰り返すことで、睡眠・覚醒リズムだけでなくエネルギー恒常性の維持に寄与する。そのため、オレキシンは睡眠・覚醒リズムと糖脂質代謝機能を同調させ、2型糖尿病の発症を防止する役割を果たしている可能性が高い。そこで本年度は、睡眠・覚醒リズムを変化させる処置が糖脂質代謝に及ぼす影響とその機構におけるオレキシンの関与を検証した。まず、2型糖尿病db/dbマウスおよび非糖尿病db/m+マウスの睡眠・覚醒状態を脳波測定により比較した結果、休息期(明期)の覚醒時間の増加を伴う睡眠障害を認めた。不眠症治療薬であるオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントを休息期の開始時に投与すると睡眠障害が改善し、さらに長期間投与すると耐糖能が改善した。その改善機序を検討した結果、インスリンなどの血清ホルモン濃度は変化しなかったが、休息期中期における肝臓の時計制御遺伝子DBPや肝糖産生促進因子PEPCKの低下を認めた。一方、2型糖尿病db/dbマウスおよび食餌性肥満マウスに対し、視床下部オレキシン系を賦活化するニコチンを(腹腔内注射または自由飲水負荷により)覚醒期に投与した結果、休息期の血糖値が低下した。その機序は、血清ホルモン濃度非依存的かつ迷走神経活性依存的な肝臓のSTAT3経路を介する糖産生の抑制であった。脂質代謝には変化を認めなかった。高脂肪食負荷したオレキシン欠損マウスではニコチンの効果は消失した。また、明暗サイクルを恒明状態に変更し睡眠・覚醒リズムを攪乱させると、正常マウスの休息期の血糖値が上昇した。以上より、視床下部オレキシン系を休息期に抑制または覚醒期に活性化させると、オレキシンによる睡眠・覚醒リズム調節が強化され、肝糖産生の日周性調節が改善することを見出した。本機構は休息期の高血糖を防止するため、2型糖尿病の発症・進展の防御に重要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書において、平成27年度研究実施計画に記載した通り、本年度は睡眠・覚醒リズムに即した糖脂質代謝の調節におけるオレキシンの意義の解析を実施した。その結果、研究開始時点で予測した通り、長期間明暗サイクルが変化し睡眠・覚醒リズムが破綻すると高血糖が誘発されることや、日周性のオレキシン作用を増幅する処置を行うと2型糖尿病病態における睡眠障害が改善されるだけでなく肝糖代謝も改善されることを明らかにした。このように、本年度の研究により、視床下部オレキシン系による代謝恒常性の「動的」制御が2型糖尿病の発症・進展の防御に寄与する可能性がさらに高まったことから、平成28年度以降も引き続き、摂食リズムや雌性の性周期リズムに即した糖脂質代謝の調節におけるオレキシンの意義の解明研究を計画通り実施することが可能な状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書において、平成28年度研究実施計画に記載した通り、本研究の第2ステップとして、摂食リズムに即した糖脂質代謝の調節におけるオレキシンの意義を検証する。特に、肝臓-脳-脂肪ネットワークの意義を明らかにするため、2型糖尿病db/dbマウスの迷走神経肝臓枝切除が体重、エネルギー代謝、インスリン標的組織(肝臓、脂肪、骨格筋など)の遺伝子発現様式などに与える影響を解析する。また、オレキシン欠損マウスを用いて同様の検討を実施する。これらの検討に加えて、本研究の第1ステップとして、平成27年度に見出した睡眠・覚醒リズムに即した糖脂質代謝の調節におけるオレキシンの意義をさらに明確化するための追加のin vivoおよびin vitro解析を実施する。さらに、本研究の第3ステップとして、雌性の性周期リズムに即した糖脂質代謝の調節におけるオレキシンの意義の解明研究に着手し、平成29年度(助成の最終年度)において一定の結論が得られるよう配慮しつつ、研究を推進する。
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