研究課題/領域番号 |
15K09389
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
細岡 哲也 神戸大学, 医学部附属病院, 特定助教 (60590594)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 脂肪細胞 / インスリンシグナル / 脂質メディエーター |
研究実績の概要 |
インスリンによる代謝作用の発現に中心的な役割を担う分子PDK1の脂肪細胞特異的ノックアウトマウス(A-PDK1KOマウス)は、脂肪細胞の広範な機能不全を示しインスリン抵抗性と非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を呈する。一方、PDK1の下流に位置する転写因子FoxO1を脂肪細胞特異的に追加欠損する脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1ダブルノックアウトマウス(A-PDK1/FoxO1DKOマウス)においてインスリン抵抗性とNASHは顕著な改善を示す。すなわち、脂肪細胞のPDK1-FoxO1経路によって制御される何らかの液性因子がインスリン抵抗性やNASHの病態に関与するものと考えられる。 代表者は、このような液性因子を同定するために、A-PDK1KOマウスとA-PDK1/FoxO1DKOマウスを用いたオミックス解析を行った。脂肪組織のトランスクリプトーム解析において、アラキドン酸に由来するある特定の脂質メディエーターの産生酵素の発現がA-PDK1KOマウスにおいて増加し、A-PDK1/FoxO1DKOマウスにおいて正常化していた。この結果と一致して、脂肪組織と血液を用いたリピドーム解析において、アラキドン酸由来の特定の脂質メディエーター濃度がA-PDK1KOマウスにおいて増加し、A-PDK1/FoxO1DKOマウスにおいて正常化することを見出した。この脂質メディエーターの受容体アンタゴニストをA-PDK1KOマウスに投与することでA-PDK1KOマウスのインスリン抵抗性は顕著な改善を示した。以上の結果から、この脂質メディエーターが、A-PDK1KOマウスのインスリン抵抗性を惹起することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、インスリン抵抗性とNASHを呈するA-PDK1KOマウスとこれらの病態が改善するA-PDK1/FoxO1DKOマウスを用いたオミックス解析により、インスリン抵抗性とNASHの病態形成のメカニズムの解明を目的としたものである。 現在までに上記マウスを用いたオミックス解析により、アラキドン酸に由来するある特定の脂質メディエーターの量が脂肪組織と血液中において変化することを見出した。さらにこの脂質メディエーターの受容体アンタゴニストを用いた解析によりこの因子が実際にインスリン抵抗性に関与することも明らかとした。さらに、この脂質メディエーターの産生酵素や受容体の遺伝子改変マウスについてもすでに当大学への搬入を完了し解析の準備を進めている。 以上より、本研究計画は当初の計画通りおおむね順調に進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今回同定した脂質メディエーターがインスリン抵抗性を惹起することを明らかとしたが、NASHの病態形成にも関与するかどうかを受容体アンタゴニストを用いた解析により検討する。また脂質メディエーターの産生酵素や受容体のノックアウトマウスを用いた手法により、本脂質メディエーターの病態への関与を明らかとする。さらに、ヒトのサンプルを収集して脂質メディエーター濃度を評価することで、ヒトのインスリン抵抗性やNASHの病態に本脂質メディエーターが関与するかどうかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた論文発表を延期したため英文校正費用が不要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降の論文発表の際の英文校正費用に充てる。
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