研究実績の概要 |
C57BL/6Jマウスに高脂肪食を16週間投与し、膵島を用いたポリリボゾームプロファイル(PRP)解析を行った。高脂肪食飼育マウス膵島では、通常食飼育マウスと比較して、Polysome/Monosome (P/M)比が減少しており、翻訳が全般的に抑制を受けていた。β細胞機能に重要であるinsulin, pdx1, Slc2a2, GcKのmRNAは高脂肪食飼育マウス膵島ではmonosome側にシフトしており、これらの分子の翻訳が抑制を受けることが示された。このとき、小胞体ストレスマーカー(Chop, Atf4, Bip, sXbp1)のmRNAレベルは増加しておらず、またChopやAtf4の翻訳促進は確認されなかった。これらの結果から、高脂肪によるβ細胞翻訳抑制のメカニズムは小胞体ストレス以外にあると考えられた。対照的に酸化ストレスマーカー(Gpx1, Sod1, Nrf2)は高脂肪食により増加することが確認された。膵免疫染色では、高脂肪食マウスβ細胞においてp53が核内へ局在化を示した。さらにp53の下流標的であるp21の発現は増強していた。これらのβ細胞ではDNA損傷マーカーであるγH2AXや酸化ストレスマーカーであるNitrotyrosineの発現は増加していた。高脂肪食により膵β細胞に酸化ストレスとそれに関連するDNA損傷をきたし、p53経路が活性化していることが想定された。次にMIN6細胞に対してdoxorubicin処理を行うことでDNA損傷ストレスを誘導した。doxorubicin処理によりp53発現量とp53リン酸化レベルが増加すること、P/M比は減少し、翻訳抑制をきたすことが確認された。近年p53が全般的翻訳抑制に寄与することが示されており、糖尿病病態においても、活性化したp53経路が翻訳抑制の重要メカニズムとして寄与することが推察される。
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