研究実績の概要 |
インスリン受容体はインスリン結合部位であるαサブユニットとチロシンンキナーゼドメインを持つβサブユニットからなり、細胞外でインスリンが結合すると細胞内インスリンシグナルを活性化しインスリン作用を発揮する。我々は、インスリン受容体の細胞外ドメインが切断され可溶性インスリン受容体(soluble Insulin Receptor; sIR)が血清中に存在していることを世界で初めて報告し、この分子のELISA測定法を確立することにより、治療中を含む糖尿病患者群において健常者群より血中のsIRが有意に増加していることを見出した(Diabetes, 2007)。先行する基礎研究においてヒト培養細胞株(HepG2)を用いて本事象を再現するin vitro系を構築し、インスリン受容体が細胞膜上で切断されsIRを産生していることを証明した(Yuasa et al.,BBRC, 2014)。本年は、in vitro系の詳細な解析により、インスリン受容体はカルシウム依存性プロテアーゼであるカルパイン2により細胞外で切断され、続いてγセクレターゼにより細胞膜通過ドメインで切断されるという二段階の切断を受けていることを証明した。本来細胞内に局在するカルパイン2はexosome系によって細胞外に分泌されていることも示した。同時にインスリン受容体の切断はインスリン抵抗性の要因となることを示した。臨床医学的にはインスリンクランプ法を用いて血中sIR値が2型糖尿病患者のインスリン感受性と負に相関することを報告した(Yuasa et al.,Diabetologia, 2016)。
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