研究課題
膵β細胞においてtransient-receptor potential channel(TRP)は背景電流として膜電位形成に関与している。我々はTRPの中で、TRPM2, TRPCに注目して研究を進めた。TRPM2はインクレチンホルモンであるGLP-1(glucagon like peptide-1)の最終シグナル蛋白として膜電位の調節を担っていることが明らかとなった。GLP-1はGPCR(G-protein couplled receptor)を介して細胞内cAMP産生、EPAC2の活性化、さらにはTRPM2チャネル活性化をもたらし、細胞膜の脱分極に関与しβ細胞を興奮させて、インスリン分泌を増強していた。インスリン分泌増強作用はグルコース依存性であり、低グルコースではGLP-1によるインスリン増強作用は見られなかったが、閾値に近い濃度のグルコース存在下あるいは閾値以上の濃度のグルコースでインスリン分泌を増加させた。これらの作用はGLP-1の特有の作用ではなく、グルコースそのものもTRPM2を活性化する作用があった。この作用にもcAMP,EPAC2の関与が明らかとなり、グルコースの作用はATP感受性Kチャネルを抑制するだけではなくTRPM2活性化の作用も有していることがわかった。後者の作用はグレリン(胃から分泌される節食促進ホルモンであるが、膵ランゲルハンス島にも内因性に産生される)により抑制されることがわかった。グレリンはGiを介してcAMP産生を抑制して、TRPM2のグルコースによる活性化を阻害することでインスリン分泌を抑制していることが明らかとなった。本成果はscientific reportに報告した(2015; 5: 14041)
2: おおむね順調に進展している
TRPM2が膵β細胞におけるインスリン分泌に重要な働きをしていることの証明を行うことはできたが、まだ十分な証明とは言えない。社会的にもTRPM2の生理的役割を広く認知させる努力を学会等でも発表する必要がある。2015年度では研究成果を論文として2報目を発表できたことは順調な進展といえるが、さらなる研究の展開が必要である。近々TRPC3の働きも新たに分かったので発表予定であるが、TRPM2とTRPC3の共同作用についての研究も今後は必要である。アドレナリンによるTRPM2への修飾によるインスリン分泌の新たな制御機構についての研究をさらに進める必要もある。
1)グレリンの拮抗作用を確認するが、GLP-1によるインスリン分泌増強作用とTRPM2の活性への拮抗作用を明らかにする2)アドレナリンによるインスリン分泌抑制作用を検討することでcAMPの分泌における重要性を確認する。3)TRPCチャネルの作用を検討する。TRPCがGPR40刺激で活性化されインスリン分泌を増強することを確認する。
消耗品の執行が若干遅れた。
次年度は動物代、試薬代、インスリン測定キット代、出張旅費、印刷代、論文校正代等を計上する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Sci Rep
巻: 5 ページ: 1-13
10.1038/srep14041
Endocrinology
巻: 156 ページ: 114-23
10.1210/en.2014-1728.
Am J Physiol Endocrinol Metab
巻: 309 ページ: E320-33
10.1152/ajpendo.00446.2014
Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol
巻: 308 ページ: R360-9
10.1152/ajpregu.00344.2014.
Endocr J
巻: 62 ページ: 417-21
10.1507/endocrj.EJ14-0525.