研究課題
Aktの恒常活性型変異体であるN端にミリストイル基を付加したAkt(myr-Akt)、および競合阻害型との報告のあるK179M変異を導入したAkt(K179M-Akt)を組み込んだアデノウイルスベクターを作成し、濃縮精製を行った。これらを通常食および高脂肪食を摂餌したSprague-Dawleyラットの視床下部弓状核に脳定位固定術を用いて微量注入し、同部位に過剰発現されていることを確認した。コントロールであるLacZウイルス、myr-Aktウイルス、およびK179M-Aktウイルスを同タイターで微量注入した3群において、脳定位固定術と同時に左頸動脈と右頸静脈にカテーテル留置術を行い、1週間の回復期間における体重の変化を連日で測定した。1週間後に無麻酔非拘束条件下において2.5mU/kg.minの生理的高インスリン血症正常血糖クランプ法を用いてインスリン感受性を調査した。3群において体重の変化量に有意な差は認められなかった。高脂肪食の摂餌によって通常食と比較し、コントロール群においてはインスリン刺激時による肝糖産生の抑制が鈍化した(肝インスリン抵抗性)が、視床下部弓状核myr-Aktの発現によってこの肝インスリン抵抗性は解除された。一方、視床下部弓状核K179M-Aktの発現によって通常食、高脂肪食摂餌ラットのいずれにおいても現時点ではインスリン感受性に対して有意な影響は認められていない。この原因として、K179M-Aktが内因性のAktを有効に抑制していない可能性が考えられるため、現在Akt阻害薬を第3脳室に注入しつつ上記クランプ実験を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
視床下部弓状核におけるAktが肝のインスリン感受性を調節する作用を持つことが示された。これが過剰発現でのみ起きる現象であるのか、あるいは生理的意義をもつ現象であるのかを現在調べている。おおむね計画通りに進行しているため、上記進捗状況の判断とした。
当初の計画の通り、視床下部弓状核においてAktを抑制した場合にインスリン感受性に影響するか否かを調べるとともに、Akt下流シグナルであるFoxo1, PGC1αおよびGSK3βのAktによってリン酸化を受けない変異体をそれぞれ、あるいは同時に視床下部弓状核にアデノウイルスベクターによって強制発現させ、摂食・体重およびインスリン感受性に対する影響を調べることにより、Akt情報伝達のどの要素が中枢神経を介した摂食調節および糖代謝に生理的な役割を有するかを解明する。
全ての交付金は実験用の試薬(抗体、RIトレーサー、培養用培地、ウイルス精製用試薬、RNA抽出・定量用の試薬など)および器材(サンプルチューブ、チップ、培養用ディッシュ、カテーテル、注射針、シリンジなど)、および実験動物を購入するために使用した。平成27年度の実験計画に従い購入し、実験を行っていたところ、年度末には34,421円の残額が生じた。平成28年度には平成27年度と比較してより多くの匹数のラットを用いたクランプ実験を予定しているため、この34,421円は平成28年度にラットを購入するために使用することとした。これが次年度使用額が生じた理由である。
本年度の実験計画は前年度に比して、実験動物もより多くの匹数を要することが予想されるため、上記の実験用試薬、実験用器材、実験動物の購入費用は734,421円またはそれ以上になる可能性が高い。
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