一昨年度、当院での膵摘出術を施行された患者99例の膵組織を用いて、膵α・β細胞量の肥満や糖尿病での変化を検討した結果を英文誌に出版した(Inaishi et al. J Clin Endocrinol Metab 2016)。その結果、我々はインスリン抵抗性下におけるβ細胞量の変化は日本人では極めて限定的であること、また、α細胞量ではなく、β細胞量が血糖コントロールを規定する主要な因子であることが明らかとなった。 昨年度は、これらの患者および剖検例72例を加えた計171例の膵標本を用いて、β細胞量に関わる因子についてさらなる検討を進めた。脂肪毒性として膵内脂肪の蓄積がβ細胞障害を引き起こし糖尿病の発症に寄与することが動物実験などで示されている。ヒトでの関与を調べるため、膵内脂肪量とβ細胞量との関連につき検討を行い、膵内脂肪の蓄積はβ細胞量や耐糖能と明らかな関連を認めなかったことを英文論文にて報告した(Murakami et al.J Clin Endocrinol Metab 2017)。したがってヒトでは膵脂肪蓄積の糖尿病発症への寄与は少ないものと考えられ、糖尿病発症前のβ細胞障害には他の因子が関わっている可能性が示唆された。また、現在β細胞以外の内分泌細胞の変化やβ細胞の脱分化が糖尿病の発症に関与している可能性が動物実験にて示唆されており、ヒト膵組織を用いた他の内分泌細胞の肥満や糖尿病における変化についても検討を行い、結果はそれぞれ日本糖尿病学会(2016年5月京都、2017年5月名古屋)、欧州糖尿病学会(2016年9月ミュンヘン)および米国糖尿病学会(2017年6月サンディエゴ)にて発表を行った。
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