研究実績の概要 |
絶食により全身エネルギーが低下すると、再摂食時には炭水化物食を積極的に選択摂取する本能行動を司る制御ニューロンを見出した(Cell Reports, 22, 706-721, 2018)。この炭水化物嗜好性制御ニューロンである視床下部PVHのAMPK反応性CRHニューロンを活性化させる末梢組織からの刺激因子として、ヘパトカインであるFGF21に着目し、FGF21シグナルの視床下部内作用点と脳内ネットワークを解明を進めている。FGF21受容体であるFGFR1cに対するshRNAを、CRHニューロン特異的に発現させることで、FGFR1c受容体発現を抑制すると、絶食後に高まる炭水化物食嗜好性が完全に遮断された。絶食時に肝臓から分泌されるFGF21が、直接炭水化物嗜好性制御CRHニューロンを活性化することが示唆された。そこでFGFR1c陽性、CRHニューロンをPVHからCell sortingして回収したところ、PVHの0.1%未満の細胞集団を回収出来た。得られた細胞集団とFGFR1c陰性CRHニューロンとの発現遺伝子比較をcDNAアレイ解析を用いて行なった。炭水化物嗜好性制御に寄与するFGFR1c陽性細胞では、解糖系関連酵素の発現減少といくつかの脂質代謝に関連する特徴的な遺伝子発現を認めた。さらに様々な匂い受容体の発現を認めており、これらの発現変動の確認と解析を行っている。炭水化物嗜好性制御CRHニューロンは、絶食時に非常に敏感にAMPKのリン酸化が観察されるが、解糖系酵素の活性不全により、低血糖に応じてAMPK活性が鋭敏に活性化が可能となり、適切な炭水化物摂取を促す、精妙なエネルギー調節機構の一旦を解明できたと考えられる。
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