研究課題
下垂体腺腫はホルモン分泌能を有しながら腫瘍化するため、良性でありながら全身性の徴候をきたし、死亡率を上げ、QoL低下をもたらす比較的頻度の高い頭蓋内腫瘍である。本腫瘍の腫瘍化メカニズムに細胞周期におけるG1-S期調節を抑制するRb、Cyclin依存性キナーゼ阻害蛋白(CDKI)などの機能破綻が関わっており、我々は近年EGFRとそのファミリーであるHER2を標的とした低分子阻害薬がCDKI、Rbを刺激し、ホルモン合成分泌抑制、腫瘍のアポトーシスを誘導することを発表した(JCI 2011, Mol Endocrinol 2011)。本研究においては、近年細胞周期調節、癌の腫瘍化に関わっている事が明らかとなってきているlong non-coding RNAの下垂体腺腫腫瘍化メカニズムにおける役割を網羅的に解析し下垂体腺腫に対する分子標的薬の探索を目的とする。クッシング病患者から摘出されたACTH産生腫瘍7検体を用いマイクロアレイ解析を行った。その中で現在腫瘍の浸潤性に関連性があると考えられたCRNDEというlong non-coding RNAを同定した。現在CRNDEについての機能解析を行うため、発現ベクターを作成している。また、本マイクロアレイ解析よりクッシング病の腫瘍化に関連すことが示されているCycin Eと関連を示すlncRNAを検索したところ乳がんなどの多くの癌で転移、浸潤性を規定しているHOTAIRを同定した。ACTH産生腫瘍のマウス由来細胞株であるAtT20を用いてCyclin E阻害剤処理するとHOTAIR発現は上昇し、Cyclin EをsiRNAでノックダウンしても同じようにHOTAIRの発現は上昇した。このことからHOTAIRはCyclin Eにより負に制御されていることが明らかとなった。次にHOTAIRをAtT20でノックダウンしたところ細胞増殖が抑制された。以上のことからACTH産生細胞ではCyclin Eが腫瘍化に関わっているものの、その下流でHOTAIRが抑制され、腫瘍の増殖や浸潤性が抑制されている可能性が考えられ現在更なる検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
いままでマイクロアレイ解析で腫瘍浸潤性の有無で比較検討し、有意差を認めるlncRNAを検索してきた。その中でいくつかの差が高いものをRealtime PCR法で更なる腫瘍も含め検討した。しかし、そのいくつかは明らかな有意差を認めるものではなかった。この網羅的解析の中から重要と思われるlncRNAを抽出する過程が最も時間を有した。また、lncRNAには繰り返し配列が多く、クローニングにも時間を要した。しかし、現在当初計画したとおりに順調に実験計画は進行していると考えている。
現在同定したlncRNAのshRNAを用いたノックダウン安定株を、さらにCrispr/Cas9を用いたノックダウン細胞を作成し、その機能を解析する予定である。また、ヒトACTH産生細胞株であるDMS-79を用い、CRNDEやHOTAIRがACTH発現における転写、翻訳、タンパク質修飾や安定性に与える影響、細胞における増殖能、浸潤能に与える機構を解析する。また、ヌードマウスを用いた検討で、実際にLncRNA強制発現株、ノックアウト株などを移植したマウスでの腫瘍増殖農を検討する。本研究の意義は下垂体腺腫を調節するlncRNAを同定する事により発現が上昇しているlncRNAが同定できれば、そのAntisense oligo等を用いてその発現を抑制する事が、低下しているlncRNAが同定されれば、その抑制機構を明らかにすることにより①下垂体腺腫に対する標的薬物の開発につながるということである。また、下垂体腺腫におけるlncRNAの解析という新しい切り口の研究を進める事により、まだまだその機能が十分明らかとなっていない②lncRNAの新たな病理学的意義を新たに見出す可能性がある。
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