研究課題
慢性甲状腺炎(橋本病)に伴う自己免疫性疾患である“橋本脳症”は免疫治療によって治癒可能な精神神経疾患である.申請者らは本症の分子診断マーカーとして患者血清中の自己抗体(抗N末端αエノラーゼ抗体;抗NAE抗体)を同定している.本研究では,生物発光を用いた免疫沈降法(LIPS法)による新規の定量的・迅速な自己抗体(抗NAE抗体)の測定法の開発,橋本脳症の発症・臨床病型・治療効果等の臨床要素を規定する自己抗体の多様性の解明のための抗原部位(エピトープ)や新規自己抗体の検索を行う.これによって,橋本脳症の発症予知や早期診断・治療に結びつけることができる自己抗体測定システムを構築する.平成27年度以降の本研究開始後に全国より橋本脳症が疑われ,抗NAE抗体測定の依頼があった患者血清は順調に集積され、総数3500検体(毎年350検体)に上る.平成29年度も全国から400件以上の解析の依頼があり,研究遂行に必要な充分な検体は確保できている.これらの中から,抗NAE抗体の存在が既知の血清を用いて,電気泳動を用いる従来の方法と生物発光を用いるLIPS報の間での相関を検定する.これまでに,NAE抗原とルシフェラーゼのキメラ蛋白を発現する融合cDNAを哺乳類発現プラスミドベクターに挿入・構築している.このプラスミドを哺乳類培養細胞HEK293において発現,カラム精製し,組み換え蛋白を得ている.この組み換え蛋白は,橋本脳症患者血清と免疫学的に反応することをすでに検証した.また,ルシフェラーゼによる生物発光も得られることも確認した.そこで,電気泳動を用いる従来の方法から抗NAE抗体の陽性・陰性が既知であることが判明している血清を用いて,生物発光を用いた免疫沈降法(LIPS法)を行った結果,従来法と同様の傾向が確認された.
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