研究課題/領域番号 |
15K09444
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
鈴木 幸一 帝京大学, 医療技術学部, 教授 (20206478)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 甲状腺 / サイログロブリン |
研究実績の概要 |
甲状腺濾胞内に蓄積するサイログロブリン(Tg)は単なるホルモン合成の担体では無く、下垂体から分泌されるTSHの作用に拮抗して甲状腺機能遺伝子発現を特異的に抑制することで濾胞ごとの機能状態を調節する強力な内在性自己調節因子である。我々はこれまでに、濾胞内Tgが甲状腺ホルモン生合成に必要なヨード輸送やその有機化に関わる様々な遺伝子の発現を転写レベルで抑制することで、充分量のホルモン前駆体が蓄積した濾胞ではそれ以上のホルモン合成を停止させるという生理作用を持つことを証明してきた。一方で、濾胞内に蓄積されたホルモン前駆体はコロイドとして濾胞上皮細胞に再吸収され、加水分解の後に血中に分泌されるが、これらに関する濾胞内Tgの作用は不明であった。今回我々は、濾胞内Tgがコロイドの加水分解に関わるカテプシンの遺伝子およびタンパク発現量と酵素活性に与える影響について評価を行ったところ、TgはカテプシンHの遺伝子およびタンパク発現量と酵素活性が濃度依存性および時間依存性に増加させることを明らかにした。一方、カテプシンB、D、K、Lは有意な変化を示さなかった。これによって、甲状腺ホルモン生合成における濾胞上皮基底側から内腔側へと向かう内向きのベクトル輸送機構は濾胞内Tgによって抑制され、逆に昨年度示した濾胞内Tgのエンドサイトーシスと今回示したコロイドの加水分解というホルモンの血中への分泌に関わる外向きのベクトル輸送機構はTgによって活性化されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に明らかとなった濾胞内Tg結合タンパクとして同定されたflotillinの役割を契機として、濾胞内コロイドの再吸収とともに加水分解に対するTgの作用を明らかにすることが出来た。FRTL-5細胞を用いたDNAマイクロアレイによってTgにより発現が大きく変動する遺伝子の抽出は終了しており、現在それらのvalidationを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
濾胞内Tgがコロイドの再吸収、加水分解およびホルモン分泌全体を促進するかどうかについてさらに総合的に検討を進める。我々は既にラット甲状腺FRTL-5細胞を用いてホルモンの結合や輸送に関わるCrymやMct8の発現がTgによって増強することを示したが、これを手術時に得られたヒト甲状腺初代培養でも確認する。また、ヨード化チロシン残基から甲状腺ホルモンが合成される際に、未使用のヨードを脱ヨード化し再利用する酵素であるDehal 1に対する濾胞内Tgの作用に関しても明らかにする。Tg作用機序の解明に関しては、TSHで発現が誘導される甲状腺機能遺伝子の多くがTgで発現が抑制されることから、TgがTSH受容体下流のシグナルに与える影響について重点的に研究を行う。同時に、FRTL-5細胞を用いたDNAマイクロアレイによって発現が大きく変動する遺伝子のvalidationをさらに進めることによって、Tgの作用点を解明するとともに、甲状腺細胞に発現しその量がTgによって大きく変動するこれら未知の遺伝子機能解明に向けた研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の使用残であり全体としては予定通り執行されている。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費等として計画的に使用する。
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