研究課題/領域番号 |
15K09446
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
生田 克哉 旭川医科大学, 医学部, 講師 (00396376)
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研究分担者 |
進藤 基博 旭川医科大学, 医学部, 講師 (10396377)
伊藤 巧 旭川医科大学, 医学部, その他 (80548686)
土岐 康通 旭川医科大学, 大学病院, その他 (90596280)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄代謝 / 血清フェリチン / ヘプシジン / 鉄感知機構 |
研究実績の概要 |
本研究は、鉄過剰時に増加する血清フェリチンが、肝臓の肝細胞膜表面のトランスフェリン受容体との結合を介して、鉄代謝調節因子ヘプシジンの発現を調節する可能性に着目し解明を目指すものであり、未だ不明な部分が多い生体鉄感知機構を解明し、さらにその経路を調節する薬剤開発の基盤を得ることを目的としている。 ヒト肝癌細胞株に対し、各種精製フェリチン蛋白(ヒト肝臓由来、ヒト脾臓由来、遺伝子組み換えヒトフェリチン L-subunit精製タンパク、ウマフェリチン)を培養上清に添加し、ヘプシジン(HAMP)遺伝子発現をreal-time PCRにて検討した。その結果、正常肝細胞の性質を強く残すHepG2細胞株において、ヒト脾臓由来フェリチン添加時にコントロールと比較してHAMP遺伝子発現上昇を認めている。 また、フェリチンはH-とL-と呼ばれる異なる2種類のsubunitが24個結合したheteropolymerを形成しているため、各subunitの関与を個別に解析するため、各々をコードするcDNAをクローニングし、全塩基配列をで確認し、次に哺乳類細胞での発現ベクターに組み込んだ(旭川医科大学遺伝子組換え実験安全管理規程第13条第6項の規定に基づき実施を申請、受理されている)。作成したヒトフェリチンH-およびL-subunit発現ベクターをhuman embryonic kidney (HEK) 293細胞にlipofection法にて遺伝子導入を行い、安定細胞株樹立を行った。現在H-subunit強制発現HEK293細胞が樹立でき、L-subunit強制発現HEK293細胞はselection過程にある。さらに、生体内では肝臓や脾臓などの網内系を中心に鉄を貯蔵するためフェリチン発現はこれらの細胞での発現が主体と考えられ、強制発現させたフェリチンsubunitsが効率よく細胞外の培養上清中に放出されない可能性を想起するに至り、ヒト肝癌細胞由来株に対してもヒトフェリチン発現ベクターの遺伝子導入を行い安定細胞株を得る作業を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、ヒトフェリチンH-およびL-subunitをコードするcDNAをクローニングし全塩基配列を確認、続いて哺乳類細胞での発現ベクターへの組み換え、さらに遺伝子導入への必要量の増幅も完了させた。作成したベクターをHEK293細胞に遺伝子導入し安定細胞を得る一方で、ヒト肝細胞由来細胞株での安定発現株も必要となりうると判断し同時に開始している。 また、当初はヒトフェリチンH-およびL-subunitを大腸菌で発現・精製するのを第一に行う予定でいたが、血清フェリチンは通常はheteropolymerで存在することを加味し、入手可能であった各種精製フェリチン蛋白を培養上清に添加してHAMP遺伝子発現変化のreal-time PCRでの検討を先行させ結果を得てきている。 本研究過程では、培養上清やマウス血清中でトランスフェリンと結合できなくなった非トランスフェリン結合鉄(NTBI)が出現してくる可能性があり、それもmonitoringしていく必要が生じうる。この点に関連し、最近我々が開発した生化学自動分析装置対応NTBI測定試薬が細胞培養上清やマウス血清中のNTBIも問題なく測定できることを平成27年度に確認し、論文化も行っており、本研究を進める上での基盤の一つを確立させた(平成28年4月accept, Int J Hematol)。 さらに、ヘプシジン発現変化は実際に細胞外に放出されるペプチドレベルの測定まで行うことが望ましいが、この点に関しても、我々の開発したヘプシジンの3 isoforms同時定量系を用いた肝癌細胞株共存下での各isoformの分解や安定性に関する詳細な解析が終了し平成27年に論文化し、本研究を進める上での大きな基盤を確立した(Addo L, Ikuta K, et al. Int J Hemaotol)。 このように一部研究計画の修正はあるが、概ね解析予定をこなし、今後の検討への準備も整ってきており、さらに本研究への方法論的基盤固めも同時に完了させており、全体としては順調な進行状況と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の検討では、ヒト脾臓由来フェリチン蛋白添加でヒト肝癌細胞株HegG2でHAMP遺伝子発現増加が認められたが、他の細胞株やフェリチン蛋白では明らかな変動を認めていない。これまでヒト血清フェリチン基準値上限を超える200 ng/mLでの設定を用いているが、今後はさらに高濃度フェリチン添加での検討をしていく必要を考えている。 また、現在フェリチン強制発現HEK293安定細胞株樹立が一部終了したところで、引き続き進行中の細胞株樹立を進め、さらに肝癌細胞株での安定株樹立も同時に進める。その上で、それらの細胞株が細胞外へとフェリチン蛋白を効率よく放出するか検討し、その定量・モニタリングを行える条件を検討する。もしこれらの細胞でのフェリチン発現・放出が効率よく行かない場合には、大腸菌での発現・精製に加え、ヒト網内系由来細胞株での検討も必要になりうると考えている。 フェリチン蛋白の肝細胞におけるHAMP遺伝子発現への関与に関しては、フェリチンH-およびL-subunitと肝細胞膜表面でのトランスフェリン受容体1(TfR1)や各種の遺伝性ヘモクロマトーシス責任分子の結合などに関しての分子生物学的解析が必要と考えている。既報でのフェリチンH-subunitとの結合を考え合わせると、TfR1強制発現細胞ではHAMP発現亢進が予想されるが、細胞膜表面上で生体鉄感知を行うとする仮説があるHFEやTfR2の機能解明も併せて行っていくため、我々が既に作成・所有しているHFE、TfR2発現ベクターの遺伝子導入により各種肝癌細胞株から安定強制発現株も樹立する。 加えて、HAMP遺伝子のpromotor領域の細胞外フェリチン濃度変化に対する反応についてluciferase assay解析を加え、細胞外フェリチン濃度変化からヘプシジン発現変動に至る一連の動きの解明を目指す。 また、平成28年度以降ではマウスを用いたin vivoでの高フェリチン血症とHAMP遺伝子・ヘプシジン発現の経時的変動についても解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請した所要額1,400,000円に対して、必要物品を過不足なく購入した結果実際に使用したのが848,363円であり、残額551,637円となった。予定より少額の使用となった理由としては、研究で使用するフェリチン発現ベクター作成に関して、クローニングや遺伝子組み換え作業が既に所有していた物品を活用することで予想より非常に順調に成功したことが最も大きい。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の残額551,637円は、平成28年度の研究継続のための物品費の一部として使用したい。特に、フェリチン蛋白購入、細胞から分泌させるフェリチン濃度測定(生化学自動分析装置、Western blotting)やヘプシジン発現評価(real-time PCR)などに必要な経費として使用することで、より詳細な解析が可能となると考えている。
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