研究課題
本研究では、血小板機能の中核をなすインテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の制御分子の同定、解析を目的としている。本年度は重篤な出血症状を来す患者(16歳、女性)検体の解析を行った。患者は非血族結婚の両親から生まれたが、1歳より輸血が必要なほど重篤な鼻出血を頻回に起こしている。血小板機能検査にて、血小板膜糖蛋白の発現量には異常はないが、PMA以外の各種アゴニストによるαIIbβ3活性化が障害されていた。αIIbβ3活性化に関連する主要な分子を解析したところ、タリンやキンドリンは正常に発現していたが、Calcium and DAG-regulated guanine nucleotide exchange factor I (CalDAG-GEFI)の欠損が示された。実際、PAR1刺激にては細胞内Caイオン濃度の増加が誘導されたが、CalDAG-GEFIの下流のRap1の活性化は障害されていた。遺伝子解析により、患者はLys309XとLeu360delの複合ヘテロ接合体であった。さらに発現実験にて、これらの遺伝子異常がCalDAG-GEFI欠損の原因であることを示した。CalDAG-GEFI欠損による血小板機能障害に関してαIIbβ3活性化のvelocity解析を行うと、P2Y12欠損血小板とは異なり、その活性化の著明な遅延が明らかとなった。この活性化遅延が患者における高度の出血傾向の原因の一つと考えられた。さらにCalDAG-GEFI欠損患者における好中球上のβ2インテグリンの活性化に関しては、明らかな異常は認めなかった。今回の解析結果よりαIIbβ3の急峻な活性化にCalDAG-GEFIが極めて重要な分子であることが患者解析より明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
極めて貴重な患者解析を遂行でき、αIIbβ3活性化の分子機能の一部を明らかにすることができた。今回の症例は世界第2例目であり、現在までCalDAG-GEFIノックアウトマススの解析が中心であったが、ヒト血小板における解析が可能となった。さらにCalDAG-GEFIノックアウトマススでは好中球の機能異常が示されていたが、ヒトにおいては好中球機能に大きな障害がないことも示すことができた。
今後は、ヒト血小板を用いた解析を継続すると共に、申請者が開発したCMK細胞システムを用いて遺伝子導入手法によりさらなる機能解析を行う方針である。さらにαIIbβ3活性化変異を有する血小板をマウスで作製中であり、その機能解析も行う予定である。
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