研究課題
本年度の研究にて、申請者は、ミトコンドリアの分裂阻害が、機能的にも造血幹細胞機能の維持や、prdm16欠損造血幹細胞の低下した造血幹細胞能の回復に寄与することを示した。また、ヒト急性骨髄性白血病サンプルを用いて、初めて、AML細胞が、正常造血幹細胞と比べて、より好気的代謝を用いていることを明らかにした。今後の研究により、ミトコンドリア融合因子である、Mfn1/2やOpa1の機能阻害による造血幹細胞能への影響、また同遺伝子の欠損細胞への強制発現による幹細胞能の回復に関して検証を進めていく。また、ヒトAML細胞での解析も、CD34陽性分画のみならず、当研究室にて見出した新規白血病幹細胞マーカーであるTim3を用いて、幹細胞分画の純化を進めていき、より純化した白血病幹細胞での網羅的メタボローム解析、グルタチオン代謝の解析を進め、白血病幹細胞特異的な代謝経路を検証し、白血病幹細胞を根絶する新規標的治療への応用の基盤とする。今回、ヒト急性骨髄性白血病サンプルを用いて、初めて、AML細胞が、正常造血幹細胞と比べて、より好気的代謝を用いていることを明らかにした。これは、白血病幹細胞が正常造血幹細胞とは異なるエネルギー代謝プロファイルを有している可能性を示すものであり、白血病幹細胞を根絶する新規標的治療への応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
ミトコンドリア分裂阻害剤であるMdivi1存在下で培養したPrdm16+/-骨髄細胞、野生型(Prdm16+/+)骨髄細胞を用いて、競合的骨髄移植を行った。Mdivi1 を投与したPrdm16+/-骨髄細胞では、競合的骨髄移植後のドナー由来の造血細胞をより多く認めており、低下したPrdm16+/-骨髄細胞の造血再構築能は、Mdivi1投与により回復した 。ミトコンドリア分裂阻害剤であるMdivi1を加えることで、低下したPrdm16欠損骨髄細胞の造血再構築能は回復し、また、長期培養での骨髄細胞の造血再構築能が保たれたことにより、ミトコンドリアの分裂の阻害が、機能的にも造血幹細胞能の回復、維持に働いていることが示された。我々は今回、正常造血幹細胞分画としてヒト骨髄CD34+細胞と、白血病幹細胞分画としてヒトAMLCD34+細胞において、解糖系、ミトコンドリア呼吸経路、グルタチオン代謝、アミノ酸代謝経経路などの116種類の代謝物質について網羅的メタボローム解析を行った。ヒトAMLCD34+細胞では、F1, 6BP、PEP、Pyruvateの産生が高く、ヒト骨髄CD34+細胞よりも糖代謝が亢進していると考えられ、Lactateはヒト骨髄CD34+細胞で高く、CitrateはヒトAMLCD34+細胞で高いため、ヒトAMLCD34+細胞はグルコースをより好気的に代謝している可能性が考えられた 。ヒトAML細胞では、好気的代謝により発生し、細胞の生存に対して不利に働くROSに対応するためにグルタチオン、とりわけ還元型グルタチオン (GSH)を大量に産生しており、それは、アミノ酸トランスポーター(ASCT2)の発現亢進を介している可能性が示唆された。上記のように、初年度としては新しい知見を得ることができ、おおむね順調に進展しているといえる。
造血細胞に発現するMx1やVavプロモーター制御下に、ミトコンドリア融合因子であるMfn1/2やOpa1の機能を欠損するマウス骨髄細胞を用いて、以下の研究計画を実行する。造血幹細胞分画や分化した血球分画の解析を行い、ミトコンドリア融合の阻害による造血幹細胞機能への影響を検証する。また、競合的骨髄移植、連続的骨髄移植を行い、造血再構築能を評価する。造血幹細胞機能の低下や、造血再構築能の低下が見られた場合は、同遺伝子や下流の代謝経路の遺伝子の強制発現により、幹細胞能が回復するかを検証する。同様にミトコンドリア分裂阻害剤であるMdivi1を投与することで幹細胞能が回復するかを検証する。また、ミトコンドリア分裂因子であるDrp1の機能阻害による造血幹細胞機能の評価も併せて行う。今回解析したCD34+CD38-白血病幹細胞よりさらに純化した白血病幹細胞分画をTim3などの特異抗原で濃縮し、この分画でのメタボローム解析、グルタチオン代謝経路の解析を進めていき、白血病幹細胞特異的な代謝経路を検証する。見出した代謝経路、物質に関しては、阻害剤、shRNAによる阻害実験により、特異的標的としての可能性を検証し、新規標的治療への基盤とする。また、前白血病状態と言うべき骨髄異形成症候群(MDS)における幹細胞亜分画の解析は、正常造血幹細胞から白血病幹細胞への進展のメカニズム考えるにあたり有用である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Int J Hematol.
巻: 102 ページ: 244-8