研究課題
我々は好中球・血小板相互作用による血栓形成への影響を検証するために多血小板含有血漿 (PRP)、多形核好中球 (PMN) 、少量のthrombinを用いて96 well plate内で血漿クロットを作成し、その混濁度により血栓形成を定量化するin vitroの実験系を構築した。これにより、好中球(PMN)、血小板表面に発現する分子レベルで血栓形成のメカニズムを検証することが可能となった。HistoneはTLR2,4を介して血小板を活性化し,血小板上にP-selectinを発現することが報告されている.しかし血小板PRP群と比較しPRP+PMN群において,histone存在下で吸光度の著明な増幅効果が見られたことからは,血栓形成においてhistoneによる血小板に対する作用だけでなく,好中球・血小板相互作用が重要であると考えられた.血栓形成において,好中球・血小板相互作用に好中球上のMac-1と血小板上のGPIbαの相互作用が重要であるという報告は以前からあるが,我々の実験でhistone誘発血栓症モデルにおいてMac-1 KOマウスで生存が改善したことから,histoneによる好中球・血小板相互作用にはMac-1が関与していると考えられる.これらのことから,histoneによりP-selectinを発現した血小板が好中球と接着し,好中球上のMac-1と血小板上のGPIbαの相互作用により血栓形成を起こすという仮説を立てた.本研究により,「好中球のMac-1の発現が亢進している病態である糖尿病では、血栓症の発症が助長される要因として,Mac-1を介した血小板・好中球相互作用に代表されるhistone感受性が亢進している」という新たなメカニズム解明の糸口を掴んだ.
2: おおむね順調に進展している
in vivoの実験で、高脂肪食糖尿病マウスは炎症におけるDAMPsであるヒストンによる炎症性血栓モデルに感受性が高いことを示し、そのメカニズムをin vitroで検証する血栓定量化の実験系を構築した。今後の研究を進める基盤が構築された。
糖尿病の病態は最終糖化産物 (AGEs)の形成に特徴づけられるが、AGEsの前駆体の一つであるmethylglyoxal (MG)は好中球に接着因子Mac-1を発現させ、好中球・血小板凝集に関与することが報告されている。糖尿病においてはMGがMac-1を活性化することが知られていることから、糖尿病では血栓形成をアウトカムとしたヒストン感受性が亢進していると予想される。今後、上記の血栓定量化のin vitro実験系において、好中球・血小板相互作用を担うと予想される分子の中和抗体を用いて検証することによりヒストンがどのような分子を介して、好中球-血小板相互作用を活性化するのかを分子レベルで解明する予定である。また、好中球はTLR-2,4を発現するが、ヒストンが直接好中球を活性化するという報告はまだなされていないことから、我々は新たなメカニズムとしてヒストンによる好中球の直接的活性化の可能性について解明する予定である。
次年度使用額が20090円生じたが、これは発注のタイミングと実験のタイミングの関係から生じた端数でありほぼ当該年度研究費を使い切って研究を行った。
次年度も実験は継続し、引き続き研究消耗品(試薬やマウス購入費など)に主として充当するために使用させていただく予定としている。
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EBioMedicine
巻: 10 ページ: 204-215
10.1016/j.ebiom.2016.07.012