研究課題
HTLV-1キャリアモデルマウス作製のために、ヒトリンパ球が効率よく出現し、HTLV-1感染状態が長期的解析が可能なヒト化マウスの作製法を検討した。その結果、ヒト臍帯血より精製したヒト造血幹細胞を、凍結保存すること無く速やかに生後48時間以内のNOJマウス肝臓内に移植することで、長期感染実験に耐え得るヒト化マウスが効率良く得られることが明らかになった。移植後16週経過したヒト化マウスでは、ほとんどの個体でヒトCD45陽性細胞が末梢血中に確認され、さらにHTLV-1の主要な標的細胞であるCD4陽性T細胞が出現する個体を以降の感染実験に用いた。HTLV-1感染については、従来、感染後2~4週にウイルス量と感染ヒト細胞数が共に急激に増加するモデルが得られていたが、HTLV-1キャリアで見られる低PVLの潜伏感染状態が再現されていない。そこでまず、ヒト化マウスへのHTLV-1の感染方法を検討した。HTLV-1の感染源としてHTLV-1感染細胞株であるMT-2細胞をヒト化マウスに移入するが、近年MT-2細胞には様々な亜株が存在することが明らかにされており、数種類のMT-2細胞の性状を解析した。その結果、1:細胞ゲノム中のHTLV-1プロウイルスが8、12、16コピーを持つMT-2細胞が存在すること、2:細胞増殖活性が異なること、3:細胞表面分子の発現パターンが異なること、が明らかとなった。このような性状を持つ複数のMT-2細胞を感染源として、ヒト化マウス末梢血中のHTLV-1ウイルス量を解析したところ、JCRB細胞バンクから入手したMT-2細胞(HTLV-1プロウイルス4コピー)を移入したヒト化マウスにおいて、移植後9週という長期に渡って低ウイルス量を維持した。このように、本年度においてHTLV-1キャリアモデルマウスの作製方法を確立することができた。
2: おおむね順調に進展している
本年度までに、長期感染実験が可能なヒト化マウス作製手法を確立した。また、ヒト造血幹細胞のレシピエントとなる、重度免疫不全のNOJマウスを継続的に維持繁殖し、ヒト化マウスを効率良く作製することに成功している。HTLV-1キャリアモデル作製について検討した結果、感染源となるHTLV-1感染細胞を選別することで、キャリアで見られる長期間の潜伏感染状態を再現することに成功した。今後はさらに移入する感染細胞数や回数をより詳細に検討することで、再現性の高いキャリアモデルの確立を目指す。
本年度に確立したHTLV-1キャリアモデルを用いて、個体内における感染細胞動態を明らかにする。具体的には、感染後2週間毎に末梢血DNAを採取し、感染細胞のクローナリティをPCRやサザンブロット法などによって解析する。また、クローナリティが変化する過程における感染細胞の性質を解析するために、感染後2、4、6、8週間後のヒト化マウスより脾細胞を採取し、免疫不全マウス (NOJマウス)腹腔内へ移植する。増殖するクローンを経時的にフォローすることで、キャリア時期におけるクローン選択の意義を解明する。一方、生体内でのクローナリティの変化やクローン選択には、宿主の免疫機構と感染細胞の相互作用が大きな影響を与える可能性が指摘されている。これまでのヒト化マウス個体内ではHTLV-1特異的な免疫応答の再現は困難であり、HTLV-1キャリアモデルの確立においてはヒト免疫応答を有するヒト化マウスを利用する必要がある。そこで、来年度以降においては、免疫関連分子を導入した免疫不全マウスを用いることで、HTLV-1特異的免疫応答を誘導した新規感染ヒト化マウスモデルの構築を目指す。具体的には、HLA-A*02:01遺伝子をMHCクラスIプロモータの制御下で発現させた重度免疫不全トランスジェニックマウス (NOG-HLA-A2 Tg)に対して、HLA-Aハプロタイプが一致する造血幹細胞を移植することでヒト化マウスを作製する。これにHTLV-1を感染させ、個体内での感染細胞の動態及び免疫機能を評価する。本モデルは、ワクチンを中心としたHTLV-1感染症の免疫学的治療法の開発・評価に有用であり、さらにこれまで解析が困難であった潜伏期におけるウイルス動態の実験的検証に寄与するものと期待される。
年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成27年度分についてはほぼ使用済みである。
上記のとおり。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件)
Retrovirology
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