これまでに、ヒト造血幹細胞を新生児免疫不全マウスに移植してヒト化マウスを作製し、さらにHTLV-1を感染させることでHTLV-1キャリアマウスモデルを確立してきた。また、感染者のうち50~60代の女性において血中プロウイルスロードが他の世代よりも有意に高くなる事実を明らかにし(Lancet Infect Dis. 2016)、本モデルを用いて、性ホルモンとHTLV-1感染細胞との相互作用の解析を行った。その結果、女性ホルモンであるエストロジェンが感染細胞の増殖制御に関与している可能性を示した。 一方HTLV-1は主に母乳を介して感染するが、輸血や性交渉、経胎盤など複数の感染経路の存在が知られている。そこで本モデルを用いてHTLV-1感染経路を検討した。ヒト化マウスへHTLV-1感染細胞株を経口投与し感染を試みた結果、①経口投与で感染が成立すること、②腹腔内投与モデルと比較してウイルス量が低値であること、③比較的長期間の感染動態の解析に適していることを見出した。今後は経口感染モデルとして、初期感染のルートやウイルスリザーバー等の同定を目指す。 また、感染個体内でHTLV-1特異的免疫応答を再現し、より実際の感染者の生理状態を再現するために新規ヒト化マウスモデルの検討を実施した。HLA-A*02:01遺伝子をMHCクラスIプロモータの制御下で発現させた重度免疫不全Tgマウス (NOG-HLA-A2 Tg) を導入した。ヒト化移植法確立のため、移植前処置である放射線照射線量を検討した結果、マウス当たり2 Gyの照射量が適当であった。同手法で作製したヒト化マウスへHTLV-1を腹腔内経路で感染させたところ、一部の感染個体ではHTLV-1特異的免疫応答が惹起された。本モデルを用いて感染細胞の潜伏状態を再現することで、ヒトへの外挿性の高いキャリアモデルが確立されると期待される。
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