研究課題
本研究では、転写因子の翻訳後調節が細胞増殖の開始や停止の決定において果たす役割を明らかにする。研究代表者は長年にわたって、GATA転写因子群の研究を行なってきた、GATA転写因子は哺乳類ではGATA1からGATA6までの6種類が知られており、それぞれに共通の構造を持つジンクフィンガーにより、共通の標的配列WGATARに結合可能である。そのため、同一の標的遺伝子に結合するGATA因子が入れ替って細胞の分化段階を制御している例も報告され、因子の蛋白質分解の制御が細胞の分化や増殖の制御に関わっている可能性も予想される。特に、GATA2とGATA3はジンクフィンガー以外の部分の構造についても相同性が非常に高く、共通の構造にあるアミノ酸残基がリン酸化されて、ユビキチン化依存性のタンパク質分解を引き起こす(Koga 2007, Nakajima 2015)。このリン酸化にはCyclin dependent kinase (CDK)が関与しているが、どのCDKが重要なのか、増殖刺激やシグナル伝達系によるリン酸化と関係するかなど、その制御については未解明の部分が多い。研究代表者は、造血幹細胞・前駆細胞の制御に重要なGATA2について、主にマウスの系を用いて解析を行い、GATA2の発現およびそのリン酸化が、サイトカイン増殖刺激後の細胞周期の進行に伴うサイクリン等の発現の推移と密接な関係にあることを明らかにし、さらに、全ゲノム情報が紐づいたヒト末梢血細胞および由来細胞を多数保有する機関に研究代表者が初速する利点を生かして、ヒトT細胞のサイトカイン依存性増殖におけるGATA3の役割についても検討を行った。
3: やや遅れている
過去の研究実績に基づいて、マウス造血幹細胞や前駆細胞の増殖の調節に関わる転写因子GATA2を中心に検討を行った。さらに、研究代表者は、全ゲノム解析情報が明らかな多様性に富んだヒトリンパ球を保存するバイオバンクの運営に関わる立場であり、サイトカイン刺激などによるTリンパ球の活性化が多くの疾患発症と関わる可能性が報告されていることから、Tリンパ球の制御に重要な働きをするヒトGATA3を研究対象とすることとして検討を進めた。GATA3はマウス-ヒト間およびGATA2との相同性が高く、ユビキチン依存性分解に関わるアミノ酸残基も共通である。研究代表者の所属組織は10万人以上の方の末梢血細胞を保存しているが、そのうち、全ゲノム解析が実施された2000人を超える人について、Epstein-Barrウィルス感染による不死化細胞株を樹立しており、その際に不要となるTリンパ球についてもInterleukin2+抗CD28抗体で刺激して増殖させた後に保存している。そこで、それらの全ゲノム情報をもとに、リン酸化部位の遺伝子変異/多型を持つ例など、候補となる細胞を探索した。しかし、遺伝的背景が個人ごとの遺伝的背景の違いを考慮すると同一の変異を持つものとして数例以上の細胞が必要であり、そのような条件を満たす候補細胞を見つけることはできなかった。また、細胞周期のオンオフの解析をするためには、一度細胞増殖を停止させた後で、細胞周期を同調して培養する条件を見いだすことが必須であるが、最適な条件を決定することが困難であり、特定の細胞周期の細胞を揃えてChIPseqのような網羅的な解析を実施するには至らなかった。
上記の理由から、T細胞の実験については今後の検討課題とすることとし、現在論文として準備したGATA2に関する内容について、すでにあるRNAやChIP解析の試料を用いてRNAseqやChIPseqなどの網羅的な解析を行うなど、根拠となるデータを補充し、査読者対応などを含めて成果発表を目指す。
体調不良などで研究に供する時間も不足したこともあるが、T細胞を用いた研究については実験条件の設定や細胞の選定などの段階で支障が生じて、ChIPseqやRNAseqなど予定した網羅的解析まで進むことができなかった。次年度には、マウスGATA2関連の実験時に保存してある試料(同調培養におけるRNAおよびChIP後のDNAなど)を用いて網羅的な解析を実施する予定である。また、論文投稿用の費用として利用する。
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