USP10ノックアウト(KO)マウスは骨髄不全を伴う貧血により生後1年以内にすべて死亡する。これは胎生期より始まる造血幹細胞(HSC)のアポトーシスによるHSCの枯渇が原因であることが、本研究で明らかとなっている。さらに胎仔肝臓由来HSCのin vitro培養系を用いた解析から、USP10 KO HSCはサイトカイン飢餓ストレスに対して脆弱であることがわかった。そこで、HSCの維持に関わるUSP10の基質を同定するため、USP10結合蛋白の探索を行った。マウスT細胞株CTLL-2にPAタグを付加したUSP10をレンチウイルスにより発現させ、PAタグ抗体により免疫沈降、SDS-PAGE後、銀染色を行った。特異的なバンドを切り出し質量分析により解析したところ、ヒストンH1が同定された。ヒストンH1はリンカーヒストンとして機能するだけでなく、DNA2重鎖切断(DSB)などのDNAダメージの際にユビキチン化され、DNA修復の最初のステップにおいて足場蛋白として機能する。そこでUSP10はヒストンH1の脱ユビキチン化酵素であり、DNAダメージ応答(DDR)を制御するという仮説のもと、USP10のDDRにおける機能を解析した。USP10 KO MEF細胞をZeocin処理しDSBを誘導、γH2AX抗体染色によりDSBの程度をみたところ、USP10 KO MEFでは処理前からDSBが有意に高く、Zeocin処理後の修復もWTに比べ遷延化していた。この現象は各種ヒト細胞株のUSP10ノックダウンでも認められた。このことからUSP10はDDRにおいて重要な機能をもつことが示唆された。 これらの解析と並行して、Rosa26遺伝子座にERT2 CreをノックインしたマウスとUSP10 floxマウスを交配し、全身でUSP10をコンディショナルにKOするためのマウスを作成した。
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