研究課題/領域番号 |
15K09470
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
桐戸 敬太 山梨大学, 総合研究部, 教授 (90306150)
|
研究分担者 |
川島 一郎 山梨大学, 総合研究部, 助教 (20622369) [辞退]
三森 徹 山梨大学, 総合研究部, 助教 (80377514)
野崎 由美 山梨大学, 総合研究部, 助教 (80530104) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 骨髄増殖性腫瘍 / JAK2V617F / 糖代謝 / metformin / 活性酸素 / PP2A |
研究実績の概要 |
これまでの研究において、骨髄増殖性腫瘍細胞では、乳酸トランスポーターMCT1/MCT4の発現を認めることや、培養上清中への乳酸産生など、糖代謝が解糖系にシフトしていることを明らかにした。この成果に基づいて、本年度は、乳酸代謝経路にも影響を及ぼすビグアナイド系薬剤Metforminを用い、糖代謝経路の改変が骨髄増殖性腫瘍細胞株において生物学的及び生化学的にどのような影響を及ぼすかについて研究を進めた。以下の事項を明らかにすることができた。 1. Metforminは用量依存性に骨髄増殖性腫瘍細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導した。この抗腫瘍効果は、metforminが糖代謝系を抑制し、エネルギーセンサーであるAMPK経路を活性化するのみでなく、骨髄増殖性腫瘍のドライバー変異であるJAK2V617Fの活性を直接的に抑制していることがわかった。 2. metforminによるJAK2V617F活性の抑制には、タンパク質フォスファターゼであるPP2Aの活性調節が関与していた。 PP2Aの中でもB56αサブユニットがJAK2V617Fの抑制に関わっていた。一方、活性酸素除去剤により、metforminによるJAK2V617F抑制効果が減弱した。この結果からは、metforminによる代謝シフトのために細胞内で活性酸素の産生が増加し、JAK2V617Fの機能抑制に関わっていることが推察された。 3. 現在骨髄増殖性腫瘍の治療剤として実臨床でも使用されている、JAK2阻害剤であるruxolitinibとの併用により、metforminは相乗的にJAK2の活性を抑制し、抗腫瘍効果を発揮した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨髄増殖性腫瘍細胞株を用いた解析では、昨年度に乳酸排出酵素の発現及び乳酸産生亢進が実際に現象として認められることを明らかにしている。本年度は、この解析結果をもとに、糖代謝調節の改変を目的としてmetforminを用いた。その結果、当初の予測以上に興味深い結果として、metforminによる直接的なJAK2V617Fの抑制現象を見出した。この結果は、想定外であったが今後の新たな研究としての発展、そして新たな骨髄増殖性腫瘍の治療法の開発へとつながることが期待される。なお、骨髄系間質細胞HS-5細胞を用いた解析については、現時点では線維芽細胞マーカーや酵素の発現レベルについての基礎的な解析を進めている段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画として、骨髄間質系細胞HS-5を用いて、細胞外の乳酸レベルの変化により線維芽細胞への形質転換が誘導されるかを検討する予定である。同時に、コラーゲン合成酵素の発現レベル、細胞外へのコラーゲン分泌への影響についても解析を進める。一方、今回見出したmetforminの作用についての研究も発展させる計画である。具体的にはHS-5において、乳酸を用いて解析する予定の上述のパラメーターについて、metformin処理後の変化を検討する計画である。 特に、(1)metformin自体がすでに世界的に広く用いられている糖尿病治療剤であること、(2)現在骨髄増殖性腫瘍の治療薬として認可されているruxolitinibと相乗的な抗腫瘍効果を有すること、などよりmetforminは骨髄増殖性腫瘍治療の新たな選択肢としても有望であると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入費が計画より少なかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
消耗品費として使用する計画である。
|