研究課題
活性化B細胞型びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC-DLBCL)の病態にはNF-kappaBシグナルの脱制御が深く関わり、NF-kappaBの恒常的活性化をもたらすようなゲノム異常がしばしば腫瘍細胞に生じていることが知られている。さらに、NF-kappaBのシグナル制御に関わる直鎖型ユビキチン複合体サブユニットであるHOIPの活性化型SNP変異をもつ人において、ABC-DLBCLの発症リスクが高いことが報告されている。そこで、NF-kappaBシグナルの活性化をもたらすHOIPの高発現がBリンパ球の腫瘍化にどのように関わるのかを明らかにするために、マウスゲノムのROSA26領域にHOIP発現遺伝子を導入し、Cre-loxP反応依存性に本遺伝子の恒常的高発現をもたらすトランスジェニックマウスを作出した。また同様に、HOIPのSNP変異を持つ症例で特に併存する頻度の高いMYD88 L265Pと相同の異常であるマウスのMYD88 L252Pがコンディショナルに発現するマウスも作出した。これらをCD19プロモータ下にCre-recombinaseを発現するマウス(CD19-Creマウス)、およびAIDプロモータ下にCre-recombinaseを発現するマウス(AID-Creマウス)と交配させることにより、それぞれ前駆B細胞および胚中心B細胞の分化段階からHOIPもしくはMYD88 L252Pが持続的に高発現するマウスを得る予定である。現在、B細胞の分化・成熟の偏りや数の変化、免疫グロブリン産生能などに着目し解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
マウスES細胞のゲノムのROSA26領域に、相同組換えを利用してCre-loxP反応依存性にHOIPあるいはMYD88 L252Pが発現するコンストラクトを導入し、そのES細胞からトランスジェニックマウスを作出した。このマウスをCD19プロモータ下にCre-recombinaseを発現するマウス(CD19-Creマウス)、およびAIDプロモータ下にCre-recombinaseを発現するマウス(AID-Creマウス)と交配させることにより、それぞれ前駆B細胞および胚中心B細胞より恒常的にHOIPが発現するマウスが得られている。これらのマウスのB細胞において、Cre-loxPシステムによりHOIP, MYD88 L252Pの高発現が適切に生じており、それに従いNF-kappaBシグナルの亢進が認められ、期待通りの性質のマウスが得られていることが確認されている。これらのマウスB細胞に認められる形質変化について、フローサイトメトリーやウェスタンブロッティングにより詳細に解析を行っており、それぞれに異なる分化・成熟の偏りおよび機能的な変化が生じていることが明らかになりつつある。
これらのマウスにおけるB細胞の生物学的特徴について、各B細胞分画の増減やレパトアの偏り、胚中心B細胞における、AIDの発現やそれによってもたらされるsomatic hypermutationやクラススイッチ組換えの効率、細胞増殖能や細胞死などへの影響について調べ、HOIPの持続的活性化によって生じるとされるABC-DLBCLのリスク素因を明らかにする。また、MYD88 L252Pなどの他の遺伝子異常も組み合わせることにより、ABC-DLBCLを発症するモデルマウスの作出を試み、本疾患の発症機序を明らかにする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Clinical Case Reports
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